第108話 妙な噂と影武者説

12月24日、終業式を終えて俺と小山内、そして薫の三人で下校中小山内が


「そういや黒ちゃん…片桐から妙な話が…」


片桐とは以前大乱闘事件で参謀役として橋本と攻め込んできた主犯格だ。


「あぁ」


「最近黒ちゃんを狙ってる怪しい影が黒ちゃんの女を餌に狙ってるとか妙な噂が立ってるらしいぞ」


「マジか!」


薫はそれを聞いて胸騒ぎがした。


「たかと…それは多分…」


そう言って俺の腕を引っ張って小山内から離れた。


「たかと…狙ってるのは向こうの天斗だよ。でも…なんか胸騒ぎがして…勘違いで理佳子が狙われているとしたら…」


「えぇ?そんな事あるか?」


「わからない…でも…たかとと、天斗の話は少しややこしい関係だから…向こうの天斗には女は居ない…だとしたら…」


「そりゃまずいな…こっちに居たら何かあってもすぐには守ってやれないし…」


俺はあの嫌な夢が正夢になるのではと心配でならない。

その時小山内が


「またなぁに?いつも俺に内緒でこそこそ話ししてぇ~!」


薫が小山内の手を握りウインクして小山内はメロメロになっている。

俺はその気持ち悪い光景から目をそらせ見なかったことにした…いや…記憶から抹消した…永遠に…


「今日はイヴだよ。さ、行こう」


薫は小山内の手を引いてスタスタ歩いていく。そしてチラッと振り返り俺に軽く頷く。


ヤバイな…この状況じゃあ、いつ何時何が理佳子の身に起きてもおかしくない…多分理佳子の為に重森が何かしら手は打ってくれるだろうけど…てか、今日は理佳子ん家行くんだった。とりあえず俺も早く帰ろ。



「ただいまぁ…母さん、今日理佳子ん家行ってくる」


「あら、そうなの?それなら手ぶらってわけにはいなかいわねぇ…将来のお嫁さんの家にお邪魔するんだから…結納金くらい持たせなきゃ」


母さんはやけにはしゃいでいるようだ。


「何か持ってく?」


「そうねぇ…もっと早く教えてくれれば用意したのに…とりあえずお菓子の詰め合わせ買って持っていきなさい。ちゃんと粗相のないようにご挨拶するのよ!一応昔はお付き合いあったけど随分前の話だし。」


「わかった。」


「それから、後で理佳ちゃんのお母さんにお電話したいから宜しく伝えて」


「うん、わかった」



俺は理佳子の家に向かう途中、デパートで手土産を買って駅に到着した。ホームで電車を待ってる時、近くにいた学生らしい感じの若者の話し声が聞こえてきた。


「なぁ、知ってるか?あの黒崎って有名な奴いるだろ?」


「あぁ、あの伝説のヤンキーだろ?」


俺はその話に聞き耳を立てる。


「そうそう、それがさ、神出鬼没で影武者説があるらしいぞ!」


「マジで?今はこっちの県に転校してきたとか、いや、やっぱり転校してないとか、あっちで派手にやりあったとか、そのときこっちで見かけたとか…なんか摩訶不思議な噂が飛び交ってて、実は双子の兄弟が居るんじゃないかとかまで…」


「あはははは!そりゃ都市伝説っぽいな」


「そうなんだよ!でも結局どっちにしてもその強さは本物だってさ」


「へぇ、そりゃ真相を知りたいとこだな…」


強さは本物…俺は複雑な思いだが、ちょっとテンションが上がってドキドキしてる。

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