どれみちゃん
あかりんりん
どれみちゃん
ある晴れた日曜日に、僕は娘のミキを車に乗せて、大きめの公園で遊んだ。
その公園は数ヶ月前に完成したばかりで、大型アスレチック遊具が有り、駐車場も広く、トイレもキレイに使われている。
自販機やベンチも多く散歩道も充実しているため、子連れの家族や散歩する年配の方、ランナーなども多くいて、いつも賑わっている。
僕たちはそこでしばらく遊んだ後、人が多くなってきたので帰ることにした。
「もうすぐお昼だし、何か食べて帰ろうか」
僕はミキに聞いてみた。
「食べたーい!ラーメン食べたい」
ミキは元気いっぱいに言った。
そんな僕たちを見ている小さな女の子がいた。
僕は国道に車を走らせて山道にあるラーメン屋に寄った。
すると、座敷に一人でラーメンを食べている女の子がいた。
どこかで見た気がする子であり、一人で食べている事を不思議に思った。
僕たちが案内された席も座敷で、その子と近くだったことも重なり、僕は声をかけてみた。
「こんにちは、お父さんとお母さんと一緒にきたの?」
その子は
「うん」
と小さい声で言った。
「一人で寂しくない?」
と聞いてみるとその子は
「うん、寂しいけれど、すぐにお父さんとおかあさんが来てくれるって」
と笑顔で言った。
「そっか。それなら安心だね」
そして僕達は先に食べ終わったので、店を後にした。
あの女の子の両親はまだ戻ってなかった。
僕は再び車を走らせて近所の図書館へ向かった。
すると、またあの女の子がいた。
僕はとっさに声をかけた。
「あっこんにちは、さっきのラーメン屋でも会ったね」
女の子は
「こんにちは」
と言った。
ミキは一人で本を選んで大人しく読んでいる。
僕はまたあの女の子に話をしてみた。
「1人で読んでえらいね。そうだ、紹介しておくよ。あの子が僕の子供で、ミキっていう名前で、7才なんだ。君の名前は?」
女の子は本を置いて話をした。
「わたし、どれみっていうの、3才だよ」
「どれみちゃん?カワイイ名前だね」
初めて聞いた名前だ。
ドレミと名付けるからには、ご両親は音楽を熱心に教育するつもりなのだろうか。
などと考えていたが、少し気になることを思い出した。
「いや待てよ・・・やはり聞いた事がある名前だ・・・確かあれは・・・そうだ!数年前に県外に住んでいた時の幼稚園でミキのクラスメイトにいた!」
子供の顔はさすがに思い出せず、似ているような似ていないような感じがした。
でも
もし、あの時のどれみちゃんだとすれば、みきと同じ7才のはず。
体格も小さいし、ただの同姓同名か。
すると、夫婦に見える二人が話かけてきた。
「さっき公園とラーメン屋にいた人ですか?どれみが君達の話を楽しそうに話してくれてね」
男の人は笑顔で少し頭を下げながら言った。
「あ、ハイ、そうです。子供が1人でいたから気になっていて」
「それはどうもありがとうございます。またどれみと仲良くしてやってください」
今度は女の人が笑顔で頭を下げながら言った。
僕は少し迷ったが、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「あのー、変な事を聞いているとは思うのですが、以前、神奈川県に住んでいませんでしたか?」
「・・・いえ、ずっとこの地方で住んでいますので。何かありましたか?」
男の人は笑顔が無くなりそう言った。
「いえ、すみません。以前僕も神奈川県に住んでいて、私の子のクラスメイトにどれみちゃんという子がいたもんですから。名前の印象が強かったのでつい。変な事を聞いてすみませんでした。では失礼しますね」
僕は頭を下げてから去った時に、後ろの方で女の人の声でこう聞こえた気がした。
「そうですか・・・それはどれみも喜びます・・・」
僕は聞こえないふりをしてその場を去った。
そして本を選び終えたミキと一緒に自宅へ帰宅した。
「おかえりなさーい。ありがとう、よく遊んできたのね。何か飲む?」
妻の優しい声が響く。
「ありがとう。じゃあアイスコーヒーをお願い。さーて、また明日から月曜日が始まるー。仕事と育児の充実した一週間が始まるぞー」
などと自分を奮起させて、その日はゆっくり休んだ。
そして月曜日になり出社した帰り道。
最寄りの駅で電車から降りて家まで歩いて約20分の帰り道。
周りは住宅街でコンビニやスーパーが有り、電灯も灯っていて夜でも明るかった。
そこで、図書館で会ったどれみちゃんのご両親に出会った。
「こないだはどうも。お礼をしたくて、待っていました」
男の人がまた笑顔で言った。
「え?いえいえ、わざわざ結構ですよ」
「お願いですから、もらってやってください」
二人からお願いされてしまい、僕は断れなくなって、差し出された袋をもらった。
「どれみに買ってやった人形ですが、いらないと言われてしまったものですから。あとお菓子も入れてますので、良かったら食べてやって下さい」
僕は付き返す事が出来ずに
「では、遠慮せずいただきます。ありがとうございます」
僕は少し困りながら受け取った。
家に着いて、お菓子と人形をミキに渡したが
「えー、お菓子だけで良いやー」
ミキは人形を一旦取り出したが、そのまま袋に戻した。
まぁもらい物だし仕方ないと思っていたら妻が
「返してきたら?」
と言った。
しかし、彼らの家を知らないので返す事は不可能だ。
あれ?
そういえばどうして僕の帰り道を知っていたんだ?
まぁ近所に住んでいて、時々僕の姿を見た事があるだけか。
それに、駅から大きな道といえばあの道になる。
などと不思議に思っていたら、妻が聞いてきた。
「そう言えば、誰にもらったの?」
「あぁ、どれみちゃんって子のご両親でね。こないだラーメン屋と図書館で出会ってね」
「どれみちゃん?カワイイ名前ね、でも変わった名前ね」
「そうそう、以前神奈川県の幼稚園でミキのクラスにどれみちゃんっていたよね。でもこないだ会った子は3才って言ってたから同姓同名の別人だね」
「あー!そういえばいたねー!懐かしいね、あっ、ミキ、仲の良かったどれみちゃんを覚えてる?」
「おぼえてなーい」
ミキは淡々と言った。まぁ子供は常に新しい情報が入るので、少し前の事でも忘れてしまうのが当たり前だ。
「そうか。まぁこっちに引っ越してしばらく経ったし覚えてないのも無理ないか。そういえばこないだラーメン屋と図書館に行った時に居た女の子は覚えてる?話はしてない?」
とミキに聞いてみたが、ミキは不思議な事をいいだした。
「話してなーい。あの日、パパずっと独り言を言ってるんだもん。変だなーって思ってたら、大人の人が二人来て、やっと独り言が終わったから安心しちゃった」
「え、あの女の子は見てないの?ラーメンも一人で食べてた子」
「知らなーい」
僕だけがどれみちゃんを見たとでもいうのか。
そんなまさか。
あるはずがない。
僕は少し怖くなったが、仕事の疲れも有りそのまま眠りに付いた。
その翌日も会社へ行き、その帰り道で、再びどれみちゃんのご両親に会った。
しかし、昨日とは会い方がまるで違っていた。
急に僕の後頭部に激痛が走り、振り返るとどれみちゃんの父親が目の前にいる。
さらに今度はどれみちゃんの母親が白い粉のようなものを僕に撒きながらぶつぶつと言っている。
「うぅぅ・・・なんなんだお前たちは・・・」
僕はかろうじて声を出せた。
「許してくれ・・・これは君のためでもあるんだ」
と父親が言って、父親も白い粉を僕に振りまきながらぶつぶつを何か言っている。
「ぐ・・・」
そのまま、おそらく殺されてしまった僕は、それから警察と救急車が来るまで、地面に倒れていた。
僕の体は動かなかったが、なぜか意識だけはずっとあった。
どれみちゃんの両親もそこから動かず、母親はただ泣いていた。
そして、父親が静かに口を開いた。
「まさか私達以外にどれみが見える人がいたなんてな・・・まぁどれみと一緒に死んだから当たり前なのかもしれないが・・・」
僕はその言葉を聞いて、ハッと数年前のあの日の事を思い出した。
僕は川で溺れかけた女の子を助けようとしてその女の子と一緒に溺れてしまい、そのまま死んでしまったが、ずっと死んだ事に気が付かずに現世をさまよっていたようだ。
その女の子がどれみちゃんだったのだ。
そしていつしか妻の再婚相手に取り付き、子供達の成長を見守っていたようだ。
それを知ったどれみちゃんが
「あのおじさんも一緒に連れて行くよ。自分が死んじゃった事を知らないみたいなの」
と毎晩、幽霊となってご両親に言い続けたようだ。
それでご両親は決心し、僕をずっと探し続け、ようやく見つけてくれて、僕を気絶させたあと、塩を撒いて念仏を唱えてくれて成仏させてくれようとしたのだ。
「どれみ、遅くなってゴメンね、やっと終わったよ」
「うぅ、ゴメンなさい、どれみ・・・」
両親は涙しながら、その場にうずくまった。
すると歩道の先にどれみちゃんがこちらへ歩いて来た。
僕の体は動かなかったが、意識と視界がどれみちゃんの方へ動き出し、僕らは手を繋いで、笑顔で天へ登っていった。
以上です。
どうもありがとうございました。
ある日の夢で、どれみちゃんという女の子が出てきて、なぜかその両親に僕が殺されかけるという夢を見たので、いろいろと肉付けして小説にしてみました。
どれみちゃん あかりんりん @akarin9080
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