心が読めると
鯨飲
心が読めると
私は人の心を読むことができる。
これに気づいたのは小学生の時だった。
当時、私は塾に通っていたため、授業よりも一歩先のことを学んでいた。
級友が問題で悩んでいると、すかざす私は教えにいった。
私は教えるのが上手かった。なぜなら、どこが分かっていないのかが、心を読む能力によって容易に見つけ出すことができたからだ。
人にものを教えるのは快感だった。
自分だけが分かっていることを分かっていない奴にひけらかすことが好きだったのだ。
しかし、心を読む能力は厄介だった。気遣いというものを覚える前だった私は、他人の心をずけずけと読み、そして干渉しすぎた。心の行間までは読めなかった。
やがて私は疎まれるようになり、段々と居場所が無くなっていった。
せっかく生まれ持った能力だったが、私は使い方を誤った。
それから私は、自身の能力を他人のためではなく、自分のために使うようになった。
他人を騙して金を儲けたり、断ることができない性格を持った人間を見つけ出し利用した。
しかし、そんな生活にも限界が来た。
心を読むことができる人間は私だけではなかったのだ。
高校の先生は、私の悪事を見抜き、直接私に咎めてきた。
個人面談の際、私は先生に自身のことを打ち明けた。
過去に、他人に能力を使って、失敗してしまったこと、どうやって能力を使っていけばいいかなど、打ち明けるついでに様々な相談をした。
すると先生は、私が小学生の時に、級友が問題のどこを分かっていないかを知るために能力を使っていたことに言及した。
最初は他人のために使っていたのだから、今もう一度それを実行すればいい、先生はそう言ってくれた。
何だか心が晴れたような気がした。
もう一度試してみよう。人の役に立つんだ。
私が選んだ職業は探偵だった。
心が読めるのだから、勝率は100%だった。
探偵を選んだのは、能力に合っていたからという理由だけではない。
自身のひけらかし欲を満たすことができたからである。
推理を大衆の前で披露するのは快感だった。
人の役(犯人の役に立っているかは分からないが)に立つ上で、快感を得られる素晴らしい仕事だ。
私は連日、難事件を解決した。
その界隈で、私のことを知らない者はいなくなっていった。
名探偵になったのだ。
まぁ心が読めるので、なれて当然なのだが。
しかし調子に乗りすぎた。
問題が発生したのである。
推理を披露しようと、犯人を指さした瞬間に、犯人が諦めて自白してくるようになったのだ。
私に犯人だと言い当てられた時に「証拠はあるんですか?」という古典的な返しをしてくる者は存在しないのである。
むしろ自ら証拠を見せてくる。
ポケットからおもむろに、血まみれのナイフを出されても困る。分かっていても驚くから止めてほしい。
自白することによって、罪を軽くしようとする考えは往々に理解できるのだが、こちらの気持ちも考えて欲しい。
大衆の前で我が推理を披露させてくれないとは何事か!
消化不良だよ
こちとら推理をひけらかすために、探偵やってるんだぞ。
あれがメインパートじゃないか。
生殺しだよ、こんなの。
こうして私は、淡々と犯人を言い当てるだけの探偵となってしまった。
心が読めると 鯨飲 @yukidaruma8
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