地味なコア一個しか宿らないと思ったらチートみたいでした
新矢識仁
第1話・十五歳、春
十五歳。
僕は、今日、十五歳になった。
地球のどこかで生きている生きる全ての子供たちが、十五歳になる日を待っている。僕もそうだ。物心ついた時から待って待って、待ちわびていた。
何故かって?
コアが見えるようになるからさ。
コアを宿せるようになるからさ。
なのに。
待って待って、待ちわびた、今日この日。
何で僕はこんな外れくじを引いちゃったんだ!?
◇ ◇ ◇ ◇
コア。
それがいつ頃から地球にあるかは、誰も知らない。
見た目は小指の爪くらいの大きさで、色は様々。触るとフニフニしている。お菓子のグミが一番近いかもしれない。自分では動かないし人間と意思疎通も出来ない。そもそも意思疎通ができるのか、生きているかすら分からない、謎の物体としか言いようがない。そんなのが、地面に、木陰に、日向に、海の中に、ビルの狭間に、ひっそりと落ちている。
ただ、地球中の人間が知っているのは、それが人間が十五歳になった時に見えるようになり、自分と相性のいいそれに触れることで肉体に宿せるんだってこと。
もちろん、みんな面白がって宿してるんじゃない。その後の人生を変えるほど重要な、成人儀礼って言ったって過言じゃない。
コアは人間に大きな恩恵をもたらしているんだ。
コアは色々な色をしているって言ったろ。
コアをその身に宿した人間は、その色にまつわる力を操れるようになるんだ。
例えば緑だと木々や草を操れる。青だと水を操れるとか。
原理は分からないけど、この色はこれに使える! と思って念じれば、それが使える時も……ある、らしい。使えない時もあるから、普段から色々な使い方をして慣れておかなきゃならないけど。
色の濃いコア程、強い力を持っている。
特に基本色と呼ばれるコアは皆の憧れ。混じりっけない赤、青、緑、紅、藍、黄。そして黒と白。これらのコアは持ち主に莫大な力を約束する。もし十五歳で基本色コアを宿せたら、高校をすっ飛ばして国からスカウトが来るほどだ。十五歳になる子供は皆、基本色のコアを宿せたらと胸を弾ませてる。
そして、コアの色と数はその人間の能力の高さを示す。
コアは、コアとの相性と本人のコアキャパシティが組み合わされば一人で三つも四つも宿せるし、色を組み合わせて力を使うこともできる。つまりたくさんの色を持っている人間が優秀ってこと。
つまり、どんな色のコアを宿すかで、将来が決まってくるんだ。
そう、僕だって。
……基本色とは言わないけれど、濃い色のコアを手に入れて、いい高校行って、いい大学入って、いい就職先見つけて。
コアで人生が決まる。コアを得ることで未来が決まる。
な、の、に。
◇ ◇ ◇ ◇
いやいや、僕だって一生懸命探したんだよ?
十五歳の朝、家族のおめでとうも言葉もそこそこに外に飛び出て、それまで気づかなかったコアの姿に興奮した。
色の強いコアに次々触った。
でも、コアは相性で決まるって言ったろ?
ふにっという感触はしても、どれもこれも僕の中に入ってくるものはなかった。
もしかして、僕に合うコアはないのかと思い始めて、緑系コアを持つおばあちゃんが僕の誕生をお祝いして庭に植えたって言う木の根元に座り込んだ時。
むにゅ、とお尻に柔らかい感触。
あ、何か踏んだかな、って思って立ち上がろうとしたその時、ズボンの布地を、下着の布地を、そして皮膚をすり抜けて入ってくる。
両親や先に十五になった友達に散々聞かされた不思議な感覚。
まさか。
もしかして。
コア?
期待と、不安の入り混じった、この感触。
やがて、右手の甲が熱くなってきた。
宿ったコアは人間の皮膚のどこかに浮かび上がる。おばあちゃんは眉間だったし、父さんは左の太もも、母さんは右の鎖骨の上だった。
……お尻じゃなくてよかったって思った。
右手に、発光しながらゆっくりとコアが浮かび上がってくる。
この光が落ち着くと、コアの色が定着し、めでたくコア定着完了、となる。
お尻で踏んだから色は分からない。どんな色だろう。
右手の甲に完全に浮かび上がったコアは、最後の光を出し終えて。
僕が希望した、何の色にもならなかった。
丸く浮かび上がるコアに、色はない。
……って言うか……。
もしかして、ベージュ色? これ。
肌に紛れて色が分からない程、淡い淡いベージュ。
火の赤でも、空の青でも、木々の緑でもない、ベージュ色。
いや、色としては好きだよ? 無難だし、なんにでも合わせられるし。
だけどさ。
ベージュって色で何かすごい力を想像できる?
ああ、これは友達に笑われる。
「よりによってベージュかよ!」って笑われる明日が目に見える。
どうせならお尻に出れば見られずに済んだのに……と思って、悪友が見せてみろと制服のズボンを脱がそうとする構図が浮かんで、クラスメイトの前でお尻を出すよりはマシか、と、明後日の方向で自分に納得させようとしたけど、全部うまく行かなかった。
笑顔で待っていた家族は、しょぼくれた僕に不思議そうな顔をしたけど、コアの色を見てすぐに分かった。
おばあちゃんが薄暗い緑、お父さんが淡い黄色、お母さんがごく淡いピンク。
それぞれ、何かの力をイメージできそうな色だ。
なのに、僕はベージュ。
肌の色としかイメージできない。
「だ、大丈夫だ!」
お父さんは僕の肩を掴んで叫んだ。
「別のコアを探そう。な? 別のコアと組み合わせれば、その色だって何かの役に立つ」
「そ、そうよね。そんな色のコアだったらコアキャパシティもそれほど消費してないと思うし!」
それから、両親と僕は街中へ、おばあちゃんは家の近所でコア探しを始めた。
十五歳で二個三個のコアを宿すコア主がいるんだから、きっと僕もって。
だけど、かき集めたコアは全て、僕の中に入ってこなかった。
コア医に駆け込んだところ、この近所のコア主のコアの色と能力を把握している老齢のコア医は、僕のコアをじっと見てから言った。
「色が薄いですな」
「新しいコアを見つけてあげようと思ったんですが、見つからないんです」
コア医は様々な機械で僕を検査して、絶望的な一言を告げた。
「コアキャパシティは一杯です」
「え」
僕も、一緒に来たお母さんも、絶句した。
「こんな薄くて淡い色なのに、何で」
「分かりませんな。コア学は今だ発展途上。こんな力のなさそうな色にこれまでのキャパシティを使うコアは初めてのケースです。新しいコアの入手は、諦めた方がよろしいかと」
これからの高校生活。憧れの大学生活。夢の社会人。
それらすべてにバツ印がつけられたようで、僕は落ち込んで帰るしかなかった。
高校受験がもうじき始まる。
これも、当然コアの色で行ける高校が決まってくる。将来を見据えて、コアの力でできることを探して、その能力を伸ばしてくれる高校に行くのが定石。
だけど、僕のベージュ色のコアは、どんな力を出してくれたこともない。
一体どんな高校なら入れるんだろう。コアにまるで力のない僕が、どんな高校に行けるだろう。
目の前の高校受験が、地獄の門に思えた。
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