第58話 二人のためなら構わない
「うたを唄うのですか?」
クロスからの突然のお願いにアカリが戸惑っている側では、ヒナタがグッと歯を食い縛って顔を背けていた
「そうだよ。いつもの素敵なうたをここで聞かせておくれ」
「でも、どうして?」
「アカリとヒナタのうたには、不思議な力があるからだよ」
そう言いながらヒナタの方に振り向いたクロス。視線を感じて顔を少し上げると、いつもの優しい笑顔でヒナタとアカリを見ていた
「ヒナタはもう分かるだろう」
「お父様の言いたいことは分かります……だから私は嫌です……唄いたくなんか」
「そうか。残念だ。二人のその本とは、さよならになっちゃうけれど……」
ヒナタとクロスの会話に、一人理解できていないアカリが二人の顔を交互に見て、うろたえている
「その本って……。フタバとさよならするの?」
側で浮かんでいるフタバに目を向け手を伸ばした。その伸ばした手が触れそうな距離になって、慌ててアカリから離れてくフタバ。触れられず、しょんぼりとして、うつ向くアカリを見て、クロスが少し困ったように、ふぅ。とため息ついた
「そうだよ。アカリとヒナタが唄わなければ、その本は、ここにあった本達と同じように消えてしまうんだよ」
「どうして……私、フタバとさよならしたくない。せっかく仲良くなれたのに……」
「そうだね。だから、早く……」
そう言うと、そっとアカリとヒナタに向けて手を差し出したクロス。それを見たヒナタが突然立ち上がりクロスから離れて叫んだ
「私は嫌です。イチカと離れたくないけど、アカリとも別れたくない!」
ヒナタのその声にイチカが背中に隠れて、震えている。同じくアカリもその叫びに、また戸惑いうろたえている
「ヒナタ、なに言ってるの?」
「大丈夫。二人のうたがあればきっと……」
「そう大丈夫よ。ヒナタ」
クロスの話を遮り、ヒナタの背中からそっと抱きしめたレイナ。耳元から聞こえてくる優しい声と温もりに、少し後ろを振り向いた
「お母様……」
少し震えた声のヒナタに呼ばれ、抱きしめていたヒナタの体をぎゅっと寄せて、そっと頭を撫でてまた耳元で優しい声で話しかけた
「そんなに怖がらないで。私も一緒に唄うのだから、二人は悲しい想いなんてさせないわ」
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