第12話 明日のために、ほんの少しの休息を

「あら。今日は帰ってこれないと行っていたのに……」

 自室でのんびりとしていたレイナ。突然、ノックもなく開いた扉を見て、驚いた表情をしている

「ノアの体調が良くなくてな。無理をさせるよりかはと思ってな。早々に帰ってきたよ」

 苦笑いで返事をしながら部屋に入ってきたクロス。椅子に座り、テーブルに置かれていたレイナの飲みかけの珈琲を見つけ、一口飲んだ

「あら……。大丈夫なの?」

「ああ、さっき医者に見て貰った。今は寝ているよ」

 そう言うと、残っていた珈琲を全部飲み干すと、コツンと音をたてて、コップをテーブルに置くと険しい表情になってレイナに話しかけた


「それで、アカリとヒナタの様子は?」

「ヒナタは寝ているわ。アカリはご飯も食べず、ずっと側にいるの」

「そうか。すぐに会いたいが、二人に何かしら影響が起きても困るからな……。ノアはしばらくここで休ませて、僕は朝一にまた出掛けるよ」

「そんなに急がなくても……」

「長く本を持って、これ以上、二人に何かあっては良くないからな」

 そう返事をすると椅子から立ち上がり、寝室の方へと歩いてくクロス。レイナの視線を感じ、少し振り返ってニコッと笑った

「もう眠るよ。君もあまり無理はしないように」

「ええ、ありがとう」

 寝室の扉が閉じると、ふぅ。と一つため息ついて、クロスが座っていた椅子に座り直すと、空になったコップを見つめ、また一つため息をついた





「ヒナタ。もう寝ちゃった……」

 唄ってすぐ、ヒナタの寝息が聞こえて唄うのを止めてしまったアカリ

「私の唄、あんまり聞いてないじゃん」

 少しムッとしながらも、ヒナタの眠る姿を見て、はぁ。とため息ついた

「私も眠ろう……」

 そう呟くと、部屋の電気を消して、ヒナタを起こさないように、そーっと隣に潜り込んだ

「ヒナタ、おやすみ……」

 疲れていたのか、すぐに眠ってしまったアカリ。窓から月明かりが入り薄暗く、静かでどこか寂しい部屋。しばらくすると、二人の眠るベッドの上をゆっくりと動く人影が現れた



「私の本……」

 静かだった部屋に聞こえてきた声。少しボーッとした表情で、本を見つめるヒナタがいた。枕元に置かれていた本を取って抱きしめると、そっとベッドから降りて、ふぅ。とため息ついた

「これじゃないの……私の本はどこ……?」

 そう一人呟くと、ヒナタが起きていることに気づいていないアカリの体を揺すりはじめた

「アカリ、起きて。お出掛け行くよ」

 何度、声をかけても体を揺っても起きる様子もなく熟睡しているアカリ。起こすことを諦めたヒナタは、月明かりが入る窓辺の方へと、そーっと歩きだした。キィと音をたて窓を開けると本を強く抱きしめ、ふぅ。と大きく深呼吸をした

「探しに行かなきゃ……私の本……」

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