光と影のシンフォニア
シャオえる
第1話 秘密の本と二人の唄
「ねぇ、ヒナタ。何読んでいるの?」
人々が住む町から少し離れた大きな一軒家の広いベランダで一人、大事そうに本を隠しながら読んでいたヒナタという髪の長い女の子に声かけた同い年くらいの女の子。声に気づいたヒナタが慌てて本を隠すように、本をぎゅっと強く抱き締めた
「……秘密!」
体をゆらゆらと二人動かして、見ようとする女の子と、一生懸命隠そうとするヒナタ。すると、揺れた体の隙間から本の表紙が見えて、嬉しそうに指差した
「もしかして、お母様から新しい本もらったの?」
本を見られたことに気づいて慌てて立ち上がり、離れようとするヒナタ。だが、女の子に腕を捕まれ逃げられずに、あたふたと一人もがいていると、一瞬の隙に本を取られてしまった
「ヒナタ!私にも読ませて!」
「ダメだよ!これは、私の本だもん!」
慌てて本を取り返すと、また本が取られないように走りだしたヒナタ。その後ろ姿に、追いかけてく女の子。二人の騒がしくも楽しそうな声や足音が家の中やベランダに響き渡っている
「あらあら、二人ともケンカはダメよ」
と、突然クスクスと笑って女性が二人に声をかけてきた。
笑い声に気づいたアカリが、女性を見るなりヒナタを置いて女性の元へと走っていった
「お母様、ヒナタだけズルいです!私にも本をください!」
「もう……。アカリも、うたをちゃんと唄えるようになったらって、約束したでしょ?」
「でも……でも……」
しょんぼりとした顔でヒナタの方に振り向くと、視線に気づいたヒナタが慌てて本を抱きしめ、見られないように隠した
「やっぱり貸して!すぐ返すから!」
「ダメだよ!アカリはすぐ本を汚すんだもん!」
ヒナタの服を引っ張ってねだるアカリから離れようと叫ぶヒナタ。二人の声が、さっきよりも大きく周りに響いている。止めることなく、二人の騒ぎを楽しそうに女性が見ていると、後ろから誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた
「レイナ。騒がしいけれど、何かあったのかい?」
と、二人の声に誘われて若い男性が二人、女性に話しかけながら、ヒナタとアカリの所に近づいてきた
「お父様っ!ヒナタにだけ新しい本が来たんです!私には無いのに……」
アカリ達に声をかけてきた若い男性に向かって大声で話かけるアカリ。その表情が段々としょんぼりとうつ向いて、声も小さくなっていく
「そうか、ヒナタは唄をうたえるようになったのかい」
アカリの側に駆け寄ってきたヒナタに声をかけると、ヒナタが嬉しそうに頷いた
「うん!やっと覚えたんだよ!お父様、聞いてくれる?」
そう言うと、男性から少し離れて、ふぅ。と一つ深呼吸をしたヒナタ。その様子を見たアカリが慌ててヒナタの隣に駆け寄っていく
「待って!私も一緒に唄う!」
ヒナタの手をぎゅっとつかんで、アカリもふぅ。と深呼吸をした。二人見つめ合うと、ニコッと笑って唄いはじめた
「二人とも素敵な唄声だ……。レイナ。君に似たんだね」
「あら、嬉しいことを言うのね」
アカリとヒナタの唄声を聞き入る二人。騒がしかったベランダに、今度は二人の唄声が響き渡っている
「明日も、あの素敵な二人の唄が響き渡るだろうか……」
「もちろんよ。明日だけじゃなく、ずっとよ」
「ああ、そうだったね」
二人が話をしていると、唄い終えたアカリとヒナタが、手を繋いで、二人の方にくるり振り向いた
「お父様、お母様。何を話しているのですか?」
「二人のうたがとても素敵だと喜んでいたんだよ」
「じゃあ、もっと唄おう!」
嬉しさで笑顔が溢れる二人。もう一度唄おうと、手を繋いで微笑み見つめ合っていると、どこからかポツポツと雨音が聞こえてきた
「あっ、雨だ……」
「二人とも、風邪を引くわ。早く家に入りなさい」
女性の声を聞いて、家政婦達がタオルを持ってベランダにやって来た
「ヒナタ。本が濡れると大変だよ。急いで戻ろう」
「う、うん」
先に家に戻ってくアカリを追いかけるように、振り返り走り出した瞬間、足元がふらついて、コケてしまったヒナタ。
バサッと本が地面に落ちた音とヒナタの倒れた音が聞こえたアカリが慌ててヒナタの側に駆け寄っていく
「ヒナタ、大丈夫?」
「うん、大丈夫……」
アカリの手を取り、ゆっくりと立ち上がるヒナタ。側に落とした本を拾ってしょんぼりと本を見つめた
「……あーあ。本、汚れちゃった……」
本についた汚れを払って更にしょんぼりとうつ向いてしまったヒナタ。その様子にアカリが声をかけられずにいる
と、先に家の中に戻っていた女性がアカリとヒナタに向かって大声で叫んだ
「二人とも、早くいらっしゃい!」
「ヒナタ、行くよ!」
いつの間にか強くなっていた雨に気づいて、落ち込んでいるヒナタの手を引っ張って、バシャバシャと足音を鳴らして
二人を呼ぶ女性の元へと走っていく
「うたと本か……」
雨に打たれたまま、家の中に入っていく二人を見つめていた男性の側に、一緒に来ていた執事の男性が傘を持って近づいてきた
「クロス様、そろそろ行かれますか?」
「ああ。あの子達の未来のために私達も動いてみようか」
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