第11話
「お待たせしました」
明るい声が聴こえたので、清吾はスマホを触る手を止めた。
顔を上げるとひかりと翔太がニコニコと笑顔で立っている。清吾は二人の笑顔で、先ほどの優子との会話で少し落ち込んでいた気分が楽になった。
ひかりは順調に買い物が出来たようで右手に沢山紙袋を持ち、左手は翔太と手を繋いでいる。
「お昼になりそうなので一旦戻って来ました」
言いながらひかりは椅子を引いて翔太を座らせた。
少し休憩してからと思ったが、翔太がお腹が減っているようなので、直ぐに昼ご飯を食べに行くことにした。
三人で昼ご飯は串カツ屋に行った。
清吾にとっては久しぶりの外食が嬉しかった。翔太はもっと嬉しかったようでずっと喜び興奮していた。自分で好きな物を取りに行って、自分の席で揚げるビュッフェスタイルの串カツ屋で、ケーキやゼリー等も置いてあり、幼児から子供からは間違い無く大好評だ。
特にソフトクリームを自分で作れる機械を、ひかりに手伝って貰いながら一緒に作っていた楽しそうな翔太の姿は微笑ましかった。
ここで出かけた際の食事代金は雇い主の清吾が全て支払うというルールを一つ増やした。
午後の買い物は清吾も一緒に回った。夕飯は牛タン専門店に行った。
夕飯を食べ終え大量の荷物を持って家に帰り着くと、直ぐに雨が降り出した。
雨は土砂降りになり、雷を伴った。翔太が雷の轟音に酷く怯えていた。
清吾はひかり達を、河原のテントから引っ越しさせた後で本当に良かったと思った。
大雨はずっと降り続いた。
清吾は自室に戻り机の上に酎ハイの入ったグラスを置いた。
窓の外をボーッと眺めながら優子の事を考えていた。正確に言うと考えてしまっていた。自分でも情けない事にやはり彼女の事を考えずにはいられなかった。今朝フードコートでの優子とのやり取りで一切未練などもう無くなったと思っていたのに。
昼間の優子とのやりとりで一言ぐらい言い返せば、この気分も晴れたのだろうか? イヤ最後に後味が悪くなるだけだ。最後にみっともなく喧嘩している場合では無い。
ダサい歌詞にもよくあるように、この豪雨がモヤモヤした清吾の心を洗い流してくれないだろうかと願った。
優子が言ったように、清吾も自分自身が変わらなければならないとは思った。
次にもし彼女が出来たら、今度は退屈させないように……イヤその前にこの先、一生彼女など出来ないような気がする。
激しい雨音に紛れてドアをノックする音がした。囁くように静かなノック音だった。それは雨音に掻き消されるくらいあまりにも微かな音で、清吾は一瞬空耳かと疑ったほどである。
察するにかなり気を遣ったノックの仕方である。
清吾はへんじをするとドアを開けた。やはりそこには、ひかりが立っていた。
薄水色のカーディガンにプリーツの入った紺色のロングスカートと上品な出立の彼女は昨日より、さらにもっと若返って見えた。そして美人に見えた。化粧と服のせいだろうか。
昨日は彼女が死神に見えたのに…………清吾は酔いが回ってきたのだろうかと思った。今日のショッピングモールで買ったのだろうか? 彼女は優子と違いスタイルが良く自分に似合った服を着こなしている。
「お休みではありませんでしたか? 」
清吾を気遣うように心配そうな顔をするひかり。
清吾は慌てて否定した。
清吾は一瞬、ひかりを、偏った趣味全開の自分の部屋に入れるかどうか悩んだが、立たせたままなのもどうかと思って中へ招き入れることにした。
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