問八の答え☆

 彼女の友達に会う!

 それは僕にとってはものすごくハードルが高く感じるし、ぶちゃけ面倒くさい。


 まあ、でもそんなこと言ったら、柚子ちゃんはきっと怒るだろうからな。

 ここはひとつ、情報収集してから返事をしよう。


 僕は気持ちを落ち着けると、柚子ちゃんの瞳をしっかりと見つめて聞いてみた。


「友達って、いつも一緒にカラオケに行っている会社の同期の人達?」

「うん。そう」


 柚子ちゃんはカラオケが好きで、よく職場の友人とカラオケボックスへ出かけているらしい。まあ、最近は僕とのデートが多いから、めっきり回数は減っているようだけれどね。


 柚子ちゃんの職場は女性が多い。しかも同じくらいの年齢の人が多いらしいから、結構和気あいあいと楽しそうだ。

 対する僕の職場は男性が多い職場。

 お洒落な女性が多い職場なんて、きっと華やかな雰囲気なのだろうなと覗いて見たい気もする。


「えーっと、会うとしたらどこで会おうと思っているのかな?」

「そうね~どうするのがいいかな~」

「き、緊張するな」

「そうだよね。面と向かってしゃべるのは、二尋君苦手だと思うから、カラオケ一緒にするとかはどうかな」

「え、カラオケ!」


 確かにカラオケだったら、しゃべらなくてもいいな。

 そう思うと同時に、僕の頭の中にはなぜか薄紫なハーレム映像が浮かび上がった。

 

 カラオケボックスで黒一点!

 周りに美女を侍らせて、ほの暗い部屋の中での饗宴!


 うん、それは悪くないかも。


 思わず頬が緩んでしまったらしい。

 目ざとく気づいた柚子ちゃん、ムッとして唇を尖らせた。

「やっぱりカラオケはやめる。二尋君、今や~らしいこと考えてたでしょ!」

「え? いや、そんなこと無いよ。全然!」


 僕は慌てて顔を引き締めた。

 コホン! とわざとらしく咳ばらいをして柚子ちゃんの言葉を待つ。


「じゃあ、みんなでボルダリングするとか!」

「え? ボルダリング?」


 今度は百八十度反対の、キラキラした爽やか映像が沸き上がった。


 確かにボルダリングだったら、しゃべらなくていいな。

 僕はやったことないけど、まあ僕だってスポーツマンの端くれ。

 こう見えて、朝の筋トレは欠かさずやっているし、ジム通いだってしていたんだ。

 今は柚子ちゃんとのデートでなかなか行かれていないけれどね。

 

 柚子ちゃんも均整の取れた美スタイルの持ち主だ。

 確か学生時代はテニス部だった気がするから、そうか!

 友達はみんなスポーツウーマンなのか。

 肢体のバランスで己自身を支える様は、きっと引き締まった筋力美を見せつけてくれるに違いない。

 

「いいね。ボルダリング」

 僕が乗り気になって答えると、柚子ちゃんはアッと言う顔をして言った。


「やっぱりやめよう! 二尋君のカッコいいのがバレちゃう」

「へ?」


 カッコいいのがばれるのが問題あるのか?

 いや、そもそも普段どんな風に僕のことを話しているんだろう?

 カッコよく無いって話しているのかな?


「柚子ちゃん、そのお友達に僕の事なんて話しているの?」

 耐え切れなくなって、思わず聞いてしまった。


「え~フツーの人って」

「普通の人?」

「そう、だってね。カッコいいなんて言って嫉妬されても面倒くさいし、カッコよく無いっていうのも悔しいし。だから、フツーの人」

「フツーの人……」

「それにね、カッコいいって言っていて、実物見たらフツーじゃんとか思われるのは嫌だけど、フツーって言っておいて本当はメッチャカッコよかったら、みんなびっくりするでしょ。気分いいよね」


「……なんか、女の子同士の会話って、色々面倒くさそうだね」

「まあね。ちょっとマウント合戦で大変な時もある」


 僕は底なしの闇を感じて、背中がゾゾッとした。


「で、結局どうする気?」

「やっぱ、やめる」

「そう」


 気疲れするイベントが無くなったのは、心底ほっとしたけれど、どうにもモヤモヤした気持ちが残った。

 

「ふふふ。素敵な二尋君は私が独り占めしちゃうの」


 でも直ぐに柚子ちゃんが僕の右腕にギュッと抱きついて、可愛い笑顔を炸裂させたから、僕は頭のモヤモヤをそっと隅へ押しやった。

 

 まあいいか。怖い世界は知らぬが仏だ。



 ☆



 柚子は心の中でにんまりする。

 

 やっぱり二尋君のお披露目はまでお預けにしよう。

 だって、三高でハンサムで、穏やかで優しい二尋君みたいな人と会わせちゃったら、彼女たちも好きになっちゃうかもしれないからね。

 ドロドロな三角、四角、五角関係になって取られちゃったら嫌だもの。


 ふふふ……逃さないわよ。二尋君!

 

      おしまい! (≧∇≦)怖い怖い




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