問四の答え☆
誕生日は来月だしな……僕は頭をフル回転させた。
でも、わからない。
こういうときは下手にしらばっくれると絶対ボロがでる。
僕は早々に考えることをあきらめて、謝ることにした。
「ごめん。何の記念日か思い出せないよ」
「あ!」
その言葉に、彼女が急に真っ赤になって下を向いた。
あ、やばい! そりゃ怒るよな。
そう思ってもう一度ごめんと言いかけて、不思議に思う。
彼女の様子がおかしい。なんかモジモジし始めている。
これは……怒っているわけじゃ無くて、恥ずかしがっているのかな?
「あの、ごめんなさい、関川さん。気にしないでください。これは私にとって特別って言うだけで、あぁ、は、恥ずかしい」
そう言ってますます赤い顔になって手で顔を覆ってしまった。
え? 何それ?
僕は怒られなくて済んでホッとしたものの、逆に気になってしまった。
一体何の記念日なんだろう?
「とりあえずお昼に行こうか」
消え入りそうな声で「はい」と答えた彼女の手を取って、予約していたイタリアンレストランへ向かった。
でも、心の中では気になって仕方がない。
ランチしながら、さり気なく聞き出そうと思った。
「そう言えば、僕達付き合い始めてそろそろ二か月になるね」
「はい。春休みの合宿の時でしたよね。関川さんが付き合おうって言ってくれて、すっごく嬉しかったです」
そうだった……あれは二月の二十日から三日間、テニスサークルの合宿に行った時のことだ。今日は四月の十七日だから、日付近いけれど違うか。
って言うか、普通は一か月記念を祝うんだろうな。
そこはスルーしちゃったからやっぱり違うか。
僕は必死に考える。
でも女の子は色々な事を記念日にしたがる傾向があるからな。
もしかしてデート記念日とか?
初デートっていつだったっけ?
でも十七日ってことは無いな。
その時、なすとベーコンのトマトソースパスタを可愛らしくハムッと口に入れた彼女の唇の動きが目に入って、僕はちょっとドギマギしてしまった。
も、もしかして……初キス記念日とかか?
えーっと、それは前回のデートの時だった。
思い出して照れ臭くなった僕は、慌ててカルボナーラの残りを口に入れた。
僕と彼女はサークルの先輩後輩の関係だ。
そのせいか、もうすぐ二か月になるのに丁寧語が抜けない彼女。
可愛いけれど、そろそろ次の段階に行きたいと思っているんだよね。
だから、興味津々にはしゃぐ彼女を見て、水族館デートにして正解だったなと思った。
特に特設会場の『きもかわ魚展』では、彼女のテンションが上がりまくりで口調も柔らかくなった。
「関川さん、見て見て! あのイソクズガニ、百均で売ってるみたいなキラキラモールを殻に付けているの! かわいいー!」
うんうん、可愛いね。でも、君の方がもっと可愛いよ。
僕は魚よりも彼女の方を見ていることが多かったかもしれない。
「フウセンウオのお家! シルバニアファミリーのお家が使われているわ。ほら、洗濯物まで干してあって可愛い!」
携帯で写真や動画を撮りまくっている。
熱帯魚水槽で
喜ぶ彼女の顔を見ているだけで、僕は嬉しくなった。
でも……やっぱり何の記念日なのか気になる。
屋上のベンチに座りながら、二人でソフトクリームをなめている時、彼女が不安そうな顔で聞いてきた。
「関川さん、あの……ごめんなさい。私ばかりはしゃいじゃって。関川さんつまらなかったんですね」
「え? なんでそんなこと……」
「関川さん、さっきから眉間に皺よっていて、実は水族館あまり好きじゃなかったのかなって思って」
しまった! 僕は記念日の事を考えすぎて眉間に皺を寄せていたらしい。
彼女に悪い事をしてしまった。
「ごめん。そうじゃないんだよ。水族館も楽しいし、君とのデートも嬉しい。ただ……」
「ただ?」
彼女が寂しそうな顔になって、僕はますます焦った。
「いや、会った時に言っていた、今日は僕との特別な日って言葉が気になってしまって。できれば僕も一緒にお祝いしたいから、どんな特別な日なのか教えてもらえないかなと思って」
その言葉に、驚いたような顔になった彼女。
次の瞬間、焦ったように目をパチパチさせながら下を向く。
そんなに言いづらいことなのかな?
「あ、いや、いやだったらいいんだよ」
可哀そうになってしどろもどろにそう言ったら、彼女は覚悟を決めたように顔を上げた。
「あの……ドン引きしないで聞いていただけますか」
「え? ドン引きなんてしないよ、絶対に!」
僕は真剣な眼差しで彼女を見つめた。
彼女は恥ずかしそうに頬を赤らめたまま、上目遣いで答えてくれた。
「私が関川さんに初めて会った日だったんです。一年前のサークルの説明会の時。関川さんが説明してくださって。その……私一目惚れっていうか、その時から好きだったから」
そう言うなり、また下を向いて更に真っ赤になった。
頭から湯気が出ていそうな勢い。
ああ、なんて可愛いいんだ!
そんなことを思っている僕も、頬が熱を持つのを感じる。
こんなこと言われたら、くぅーッ嬉しすぎる!
そう言われてみれば、新入生達を前に、なんか説明した気がするな。
あの時は、可愛い子がいっぱいで嬉しくって舞い上がっていたんだよな。
で、ふっと思い出した。
あの時の彼女、そう、僕も可愛いなって思ったんだよね。
その記憶と共に、春色のワンピースも蘇ってきた。
ああ! そう言うことか。
彼女が言った『やっぱり気付いちゃいました!』の言葉はワンピースの事だったんだ!
今日のワンピース、それはあの時と同じ服だったんだな。
僕は下を向き続けている彼女に言った。
「思い出したよ。あの時と同じワンピースだね。僕もあの時から君のこと、可愛いなって思っていたんだよ」
その言葉に、彼女が感激したように顔を上げた。
「良かった~なんでも勝手に記念日にしちゃう変な奴って思われたらどうしようって泣きそうだったんです」
心からホッとしたように胸に手を当てた彼女の仕草が可愛くて、僕はますます彼女が好きになってしまった。
「じゃあさ、来年もこの日をお祝いできるようにこんな記念日をプラスするのはどうかな?」
「どんな記念日ですか?」
「今日から僕のことを、
彼女は目をまん丸にした後、とびっきりの笑顔で頷いてくれた。
こうして来年の四月十七日は、『下の名前で呼び合った記念日』に決定したのだった。
来年も付き合っているはず……だよね。
おしまい!
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