番外編 ≪問一≫ のバージョン違いがあります☆彡

≪問一☆バージョン違い編≫


 その朝、ボクはいきなり人生の岐路に立たされた。

 

 場所は横浜駅、ここは中央改札。

 右側は西口、ボクの努める会社につながっている。

 左側は東口、千葉県にある東京某ランドへの高速バスの乗り場がある。


 隣にはめいっぱいおしゃれをしてきた君。

 おろしたてのワンピースと靴だと、ここまでくる電車の中で聞いたところだ。


 もちろんボクもこの日が来るのをとても楽しみにしていた。

 一か月前から、上司に有給の届けも出していた。

 昨日も自分の仕事はきっちりと片付けてきた。


 なのに携帯電話に会社から電話がかかってきた。

「電話持ってきたの? それに出るの?」

 口には出さないけど、彼女の心の声が聞こえるようだった。


 もちろん電話に出ないわけにはいかかった。

 相手は部長。やっぱり出社の要請だった。


 これは困った……


「ちょっとスケジュールを調整してみます」

 なんて言ってとりあえず電話を切る。


 内容を聞かなくとも、彼女も事態は把握している。

 腕を組んでボクの決断を待っている。


 まさに人生の岐路。右に曲がれば面白くもない会社への道、左に曲がれば楽しいデート。

 普通に考えればどちらがいいか考えるまでもない。


 だがそうそう自分の希望がとおるほど世の中は甘くない。


「ねぇ、関川君、ここでハッキリさせて。あたしと仕事、どっちが大事なのよ?」


 無茶な二択。答えはどっちも大事に決まってる。

 だが時としては女性は残酷な二択を突き付けてくる。


「もちろんキミに決まってるさ、でもね……」


「でも、はナシ。よく考えて答えてよね、返答次第じゃあたしにも考えがあるから」


 もちろんボクは滝汗だ。

 こうなったからには、生半可な返事はできない。


 そしてボクはこう感じてもいた。

 この返事でボクの人生はガラリとかわることになる、と……

 

「さぁ、どっちに曲がるの?」



≪バージョン違い編アンサ~≫


「ふ、分かったよ。部長には行かれないってちゃんと言うよ」

 そう言って携帯を持ち上げた僕の手を抑えて、彼女は呟いた。

「いいよ。言って来て。わがまま言ってごめんね。そう言ってくれただけで十分だから。だから、私家で待っているよ」


 そんな彼女の言葉に、愛おしさが込み上げてくる。

 そうさ。俺だって彼女と過ごすのを楽しみにしていたんだよ。

「なあ、あそこのスタバで待っていてくれないかな?〇ランドは夜までやっているだろう。だから、二時間で戻る。必ず二時間で戻るから!」


 俺の言葉に彼女の顔が輝いた。

「うん、待っている」


 俺はちょっと嬉しい気持ちになって、会社へと駆け出して行ったのだった。


 その五時間後、やっぱり二時間で会社を抜け出せなかった俺が、夜叉と化した彼女の元へ行かれずに、横浜駅中央改札でうろうろする羽目になることを、この時の俺は知る由も無かった。 おしまい(^^;

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