ママはなんでも知っている
☆STEP 1
短編の「これがあったじゃないか!」シリーズの続きです。そして、短編集まるごと傑作ぞろいシリーズの続きでもあります。
作者はジェイムズ・ヤッフェ。これまで取り上げたなかでは知名度がやや落ちるでしょう。といっても多くのミステリ好きにはおなじみの名前。これまでの作家がミステリファンでもない人にも知られているメンバーぞろいだっただけのこと。
内容はいわゆる安楽椅子探偵もの。刑事の息子が抱えている事件の謎を話すと、母親がズバリ解決してしまうので「ママはなんでも知っている」というわけです。
英訳作業に入りましょう。「ママ」は【mother】なんでしょうが、これだと「母親」っぽくなってしまうので、もう少しくだけて【mam】でしょうか。
「なんでも」は【everything】……なのかなぁ、なんかちょっと違う「ありとあらゆること」みたいな表現がありそうな気がします。慣用的な言い回しみたいなものが。たとえとしてまったく芯をとらえていないのですが、某メーカーのキャッチコピー「おはようからおやすみまで」みたいなやつが。
なんでしょう、「市役所の二階のトイレの壁の染みから家の庭の飛び石の個数まで」みたいなやつが。
「知っている」は【know】かなぁ、と。ただこれも「知る」と「知っている(状態である)」の違いや、「情報として知識がインプットされている」と「(洞察力が鋭いので)なんでもお見通しである」みたいなニュアンスの違いで【know】以外のワードがありそうな気もします。
☆STEP 2
というわけで……
“Mam Knows Everything”
で、いかがなもんでしょう?
☆STEP 3
正解は……
“Mom Knows Best”
でした。
ん? あぁ、【mom】なのね、【mam】じゃなくて。【a】じゃなくて【o】。辞書を引くと【mom】に「(お)かあちゃん」とあって、なんか腑に落ちました。
問題は【best】。辞書には「最もよいもの」とあります。悩んでいる息子の刑事にとっては「解決」は確かに「最もよいもの」なのかもしれませんが。ちょっとこれはうーん、という感じ。
犯人に同情して、真相ではなく偽の解決をとることを「最もよいもの」とするタイプの物語でもないしなぁ。
おまけ
短編集のタイトルが『ママは何でも知っている』、そこに表題作として「ママはなんでも知っている」が収録されているという形です。これも今はハヤカワ文庫から再刊されて、今、手に取りやすいはずです。
刑事の息子の抱えている事件の謎を親が解くということから、都筑道夫「退職刑事」シリーズを思い浮かべた方もいらっしゃるはず。
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