片思いの幼馴染に惚れ薬を飲ませてみたがいつもと態度が変わらない件について

高野 ケイ

第1話 幼馴染が惚れ薬を作ったらしい

「やあやあ、巧。わざわざクリスマスイブだというのに私の部屋に来るなんて、君はよっぽど暇人なんだねぇ」

「お前が来いって言ったんだろうが!! それでなんだよ、このメッセージは……今度は何を作ったんだよ?」

「くっくっくっ、どうせ一人で寂しいクリスマスイブを過ごす君に素敵なサプライズさ、世紀の発明に立ち会えるんだ。感謝したまえ」



 楽しそうになんかうさんくさい液体を掲げているのは俺の幼馴染の川瀬渚かわせなぎさだ。腰まである長い絹の様にサラサラの黒い髪に整った綺麗な顔立ちとの美少女だが、制服の上に白衣という奇抜な恰好のせいで台無しになっている。いわゆる残念美人というやつだろう。


 そんな彼女からのラインは『世紀の発明である新しい薬ができた。実験したいから来い』の一言である。いや、何言ってんだよって思うよな。俺もこいつの事を何も知らなければそう思って鼻で笑うだろうさ。だがこの女は無駄に天才なのだ。


 始まりは小学校の時である。しゃっくりを100回したら死ぬという迷信を信じていた俺が50回目くらいでガチ泣きをしていたら、「くっくっくっ、いいものをあげよう」という悪役っぽい笑い声と共に変な薬を渡されて、当時無垢だった俺が疑う事もなく飲んだ結果。三十分ほど笑いがとまらなくなったものだ。おかげでしゃっくりは止まったが、笑いすぎて息も止まるかと思ったわ。




「で、今回は何を作ったんだ? この前渡された薬を飲んだ時は顔が真っ赤になって、先生に校内で酒を飲んだと勘違いされたんだが? それともあれか、また体臭が蜂蜜になる薬か? あの時は蜂に襲われて泣きたくなったんだが……」

「あれは実にいい成果だったねぇ。でも、巧は蜂蜜が大好きじゃないか。嬉しかったんじゃないかな?」

「あくまで味と匂いが好きなだけで、蜂蜜みたいな体臭になりたいわけじゃねえよ!?」

「ふぅん、ワガママだね。まあいいさ、聞いて驚くがいいよ。今回のこれは惚れ薬だ!! なんとこれを飲んでから、最初に見た人間に惚れてしまうのさ!!」

「は……? 惚れ薬だと……」



 なんかこいつエロ同人の導入みたいなことを言いだしたんだが……俺は彼女が自慢げに掲げる泥のような液体を眺める。まずそうな見た目なのに匂いは、無駄に蜂蜜みたいでいい香りなのがむかつくな。部屋全体が蜂蜜臭いのはこれが原因だろう。それにしても、惚れ薬って、恋愛的に惚れてしまうってやつだよな。こいつ何でこんなもの作ってるんだ? 年中実験ばかりのこいつに恋愛とか興味があったのが驚きである。



「ああ、心配はいらないよ。既に実験で問題が無い事は証明されているし、効果も別に永続というわけではないさ、半日だけだ。大体12時間ほどで体内に完全に吸収され、効果は消えるから安心したまえよ」

「いや、安心できねーよ。万が一最初に男を見たら俺はホモになるのか」?」

「くっくっくっ、そうだね、新しい扉が開いてしまうかもしれない。ああ、だがそれもまた面白いな。同性への恋愛感情と異性への恋愛感情の違いを分析するいいサンプルになるかもしれないねぇ」

「なんでお前の実験でホモにならなきゃらなねーんだよ!! 惚れるならせめて可愛い女の子がいいわ!!」



 楽しそうに笑う彼女をみて俺はげんなりとした表情でツッコミをいれる。相も変わらず、イカレた物をつくっている渚だが、こいつの事だ……実験をしたと言ったといているし、俺に飲ませるという事は命には問題はないレベルには完成しているのだろう。



「でもさ、俺がここに飲んだら、渚に恋をしちゃうんだぞ。いいのかよ」

「くっくっくっ、幼馴染は異性というよりも家族のようになりやすいというからね、好都合だよ。むしろ、長い付き合いによる情を、惚れ薬がもたらす恋愛感情が凌駕するどうかのいいテストになるんじゃないかな? さあ、飲みたまえよ、モルモット




 俺の名前のルビがおかしいような気もするが、今更である。俺はずっとこいつのモルモットのように変な薬を飲み続けていたのだ。だけどなぁ……惚れ薬か……別に試してもいいんだが、一個大きな問題があるんだよなぁ……




「なんだよ、今日はずいぶんノリが悪いじゃないか。そんなに私に好意を抱くのが嫌なのかな? 子供ころは一緒にお風呂だった入って仲じゃないか。君が私に恋をして変な性癖を押し付けようとしても、私は引かないよ。むしろ人間の性癖の多様さを学ぶいい機会だとすら思っている」

「一緒にお風呂入ったのは小学校低学年の頃だし、お前が作ったスライム風呂のせいでおぼれかけたのは絶対忘れねえよ!! てか、お前こそ俺に惚れられていいのかよ!?」

「実験だともわかっているし、私は別にかまわないんだが……でも、そんなに君が嫌なら私だって無理強いはしないさ。他の人に頼むかな……」




 渚は俺の言葉に唇を尖らせて不服そうにする。薬の力で渚に惚れるっているのはちょっと抵抗があるが、仕方ない。協力するか……だって、彼女が俺以外に惚れられて……言い寄られる姿何てみたくないんだよな。



「わかったよ、そこまで言うなら実験に手伝ってやるよ」

「本当かい、流石、我が幼馴染モルモット話がわかるね!!」

「だからルビがおかしくねえか!? 効果が無くてもしらねーからな」



 俺の言葉に興奮しながら彼女は何やら準備を始める。でもさ、多分惚れ薬なんてのんでも効果ないと思うんだよな。だって俺はもう、目の前のこいつに惚れちゃってるんだからさ。

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