第129話ポンコツ娘に説明

 仕方ない……。

 本当に仕方ないが、ポンコツ化したメラクルさんに帝国軍団長アルモンドの考えを説明すると、だ。


 残念と鉄山公が言ったように、鉄山公及び兵たちにとってアルモンドは邪魔な存在ってことだ。


 では、どう邪魔なのか。

 簡単に言えば、今次大戦中は向こうの方が立場が上であることだろう。


 本来ならば鉄山公の方が実績も立場も上であったが、先のクレメンス逃亡を見逃した件は、帝国内部でも大きく響いたはずだ。


 それもそうだろう。

 パワーディメンションが王国にも渡ってしまい、兵器での差異が付けられなくなってしまった上に今後も王国への技術強化に繋がってしまった。


 今回、アルモンドと共に王都攻略陽動部隊となったのも、懲罰的側面があるだろう。


 第一、面倒な同僚と言うだけならば、まだやりようはあるはずだ。

 決定的なのは鉄山公がここに兵100で矢面に立たされている現状だ。


 鉄山公の周りに居る兵はいずれも古強者の風格を持つ。

 ならば鉄山公の直属であろう。


 それでも鉄山公が剛毅な男とは言え、兵100でこの苦境を乗り越えられると思うほど頭はフワついていないはずだ。


 そうであるならば、鉄山公に無茶を押し付けたのはアルモンドであるということが分かる。


 さらに鉄山公の兵は100しかおらず、今、接近している部隊が1000ほど。


 おそらくだが、殿を任された鉄山公の兵がすり減らされ、アルモンドの兵が温存されたと見て良いだろう。


 そしてアルモンドの性格から考えて、今回も良いとこ取りをしたいのだろうと考えなくとも分かる。


 よって、ここで命がけで正面から鉄山公に足止めさせて、横っ腹を突こうというセコい考えがアルモンドの狙いであると簡単に分かる。


 ま、それも全部無駄に終わるけどな。





「……そんな訳で結論を言えば。


 俺はここで奴らが横っ腹に突っ込んで来るのを待っている訳だ」


「なんで? なんで大人しく待つの?

 早く迎撃態勢整えないと!」


 急かすように、クイクイと俺の服を引っ張る。

 やめろ、服が伸びる!


「落ち着け。

 俺たちの部隊で気を抜いている奴などおらんだろうが。

 すでに体勢は整えてある」


 奇襲というのは、奇をてらい態勢が整わないところに突っ込み混乱させるから効果がある。


 待ち構えているところに突っ込んで来るのは、自ら罠の中に突っ込むのと何一つ変わらない。


 あと帝国軍は補給路を潰されての撤退中なので、腹減ってるだろうなぁと。

 だから、狙って来るであろう横っ腹側に食糧を運ぶ荷車を配置。


 俺の予想通りならば、目を見開いて突っ込んで冷静さを失くす。


 予想が外れていれば別の動き、冷静に立ち止まるもしくは冷静に突っ込んで来る。

 その場合には別の策を発動するだけだ。


「ねえ、ハバネロ?

 本当にふと……ふと、思い出したんだけど、私をあんたのところに来させた仕掛け人がパールハーバーってすぐに気付いたよね?

 あれってゲーム設定とかの知識?」


「何言ってんだ?

 ……ああ、まあ、誤解があるようだから言っておくが、ゲーム設定はそんなに便利な記憶じゃない。


 起きたことを辿るが、真相については不鮮明なことばかりだ。

 お前の情報なんかユリーナと仲が良かったことと名前と立場ぐらいだ。

 いずれにせよ、狙って調べれば分かる事ばかりだ」


「あ、じゃあ、やっぱり自分で予測して?」

「そりゃそうだろ?」


 他にどうしろと?

 パールハーバーを調べてたとしても、いくらなんでも証拠なんか残さんだろ?


「サ、サビナァ〜?

 教えて? 王国の貴族ってこんなのばっかりなの?」


「メラクル……。

 そんな訳ありません。

 私もそこまで至れば良いのですが、とても……」


「そ、そうよね、危うく私の常識が崩れ去るところだったわ……」


 お前、常識なんかあったっけ?


「俺が戦争は数だと言ったの覚えてるか?」

「そりゃ覚えてるけど……」


「実際のところ俺が1番恐れていたことが、それだ。


 相手が愚将であり、被害を一切気にすることなく消耗戦を仕掛けた場合、どのような手を使っても俺たちに勝ち目はなかった。


 単純な引き算になるからな。

 そこはもう覆しようがない。


 勝てたのは相手が名将だったからこそ、策に引っ掛ける余地があったからってことだ。

 アルモンドも帝国内で見れば無能に近いが、それでも王国から見れば有能な部類だからな」


「そんなもん?」

 どうにもピンと来ないらしいメラクルは困ったような顔をする。


「歴史上の英雄とか名将ならそんな話幾つもあるだろ?

 俺は他の奴らよりも情報も多いからな。

 予測ぐらい出来る」


「……ねえ、あんた。

 それわざと?

 サラッと歴史上の偉人たちと同じことしてると言ってるよね? ねえ、そうだよね?」


 そういうことじゃねぇよ、皮肉かもしれないがこういう感覚は戦争を幾度も経験している奴でないと得られないってことだ。


 俺はゲーム設定の記憶を合わせて2倍の戦争経験がある訳だからな。


 しかし面倒になった俺は、その事は説明せずにメラクルから顔を逸らす。


「さあて、策が上手くいくかはこれからだし、気合いを入れるか」


「誤魔化した?

 ねえ、今、誤魔化したよね!?」


 メラクルを無視して、俺たちの横っ腹を狙おうとついに姿を見せた帝国兵1000の部隊を見る。


 狙っている横っ腹にこれ見よがしに食糧を積んだ輸送隊が見えるはずだ。


 当然、冷静に考えられるなら見える位置に兵站の要を置くことはないと分かる筈だ。

 だが俺の見込み通りならば彼らは飢えに飢えており、それを狙わないということを考えるのは不可能だ。


 仮にボロボロなのが欺瞞行動であるならば、ここを狙う時の些細な変化で相手の部隊の状況も読める。


 必死で突っ込んで来るようなら本当に飢えているし、慎重に行動しているようならば、それは欺瞞であり本命は別。

 その場合、おそらく大将首の俺を狙いに来る。


 その際は逆に横っ腹を囮にして、正面の鉄山公を包み込みながら全軍でもって突撃をかけ、直線上に相手に逆撃を与える予定だ。


 備えている部隊相手では奇襲は逆効果なのだと見せつけてやろう。


「またふと思ったんだけど……」

 またしてもメラクルが何かを疑問に思ったようだ。


 暇なのか?

 まあ、待ってるだけだから暇かもね。

 もうじき戦闘よ?


「なんだ?」

「あんたもしかして、今回の大戦のこの流れって最初っから最後まで読んでたの?

 誰がどう動いて、その場合どうなるかとか」


 今度は俺が呆れながら返す。

「何言ってんだ?

 これは流石に遭遇しただけだぞ?」

「そ、そうよね?」


 妙に挙動不審な駄メイドだ。


「……だが、それ以外は全て読んでるに決まってるだろ?

 ルークに託した王都戦での仕掛けが上手くいったなら、ここで鉄山公たちと遭遇することも想定していたし、だからすぐに動けたんだぞ?」


 遭遇した事は偶然だが、遭遇する可能性は想定しているに決まってる。


 今更何言ってんだ?

 ただでさえ戦争は何が起こるかわからないんだ。


 だから考えつく事は全て対処しておく必要がある。

 予測が外れたとしても、その準備のおかげで九死に一生を得るということも十分にあり得るのだから。


「サビナー!

 私、この人怖い!」

「大丈夫ですよ、閣下はお味方ですから」

 泣きつかれてサビナはヨシヨシとメラクルの頭を撫でる。


 おい、甘やかすな。

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