第127話そこに大義はあるか

 ゲーム設定の中でユリーナが鉄山公に問いた大義について。


 それを俺が真似て代わりに尋ねた。

 気分だけでも主人公〜。


 すると、鉄山公に盛大にため息を吐かれた。


 あれ?

 何か呆れられたぞ?


「大義などあるわけがなかろう。

 お主、分かっておりながら意地が悪いぞ?」


 え〜?

 いや、そりゃそうなんだけどさぁー。


 ユリーナたち主人公チーム相手にはもっと真面目に返してたはずなのに、この扱いの差はなんだ!

 悪逆非道のハバネロ公爵相手だからか!


 うわ、超納得。


 さて戦争は大義というお題目にて始まる。

 身も蓋もないがそれが如何なるものであれ、それらは全て建前である。


 ましてや今回の戦争はオーバル宰相という主戦派がごり押しで、さらに裏では邪教集団の扇動による大義無き戦争である。


 お題目としては、王国の悪虐非道を正すため、もう一つはやがて来る邪神との戦いに備え人々の力を結集するため、だ。


 そのいずれにせよ……。


「ま、どんなお題目もこの戦争で無辜むこの民が犠牲になった事実は変わらんわな」

 俺も肩をすくめて同意する。

 それから100人ほどの鉄山公の部隊を見る。


「しかし、手酷くやられたようだな」

 疲れ切ったボロボロの様子だが、その目は死んでいない。


 鉄山公の部隊は仕方がないが、今まさにこちらに接近しようとする残党どもが同じ目をしているなら、少々厄介だな。


 こちらの警戒をよそに、また鉄山公は大きくため息を吐く。

 周りの帝国兵に比べ、何故か鉄山公の方が戦意が無さそうだ。


「自分で仕掛けておいてよく言うわい」

 大分お疲れのようだ。

 俺の仕掛けとな?


「俺は指揮官を任命するように頼んだだけだが?」

 ゲーム設定で大活躍したルークをフォロー付きで送り出しただけだ。


 さらにため息を吐きながら、鉄山公は言う。

「そのルークとやらが、全て公爵閣下の手の平の上だと宣言しておったぞ?」


 王都を囲もうとして、鉄山公ではないもう1人の軍団長が挑発すると笑いながら言い返されたそうな。


「わしらの戦力や本隊の動向、計画、全て見抜かれていたとあっては、わしらも落ち着けるはずもない。

 貴殿の思惑通り、わしらは見事に意見が別れ、そんな状態で王都攻城など出来るはずもあるまい」


「鉄山公が王都側に来ることまでは読んでなかったがな。

 アルモンド・ラッセンベルク侯爵は死んだか?」


「それ以外は読んでいたということじゃな?」

 そう言ってまた呆れた顔をされた。

 おっとっと、これだけの会話で分かるか、流石だなぁ。


 ついには鉄山公は天を仰ぎ、深〜く息を吐く。


「残念じゃが無事じゃよ。

 どこで情報を得てたんじゃ、まったく。

 ……ロルフレットは討ったのか?」


「いいや?

 落とし穴の中でピクピクしてたが、治療もしたし無事だ」


「……そうか。

 姫の悲しむ顔を見なくて済むわい」


 鉄山公が寂しそうに、だが、ホッとした顔をする。

 ロルフレットは皇女と恋仲なのかな?


 王都陽動部隊が鉄山公を長とする軍団でなくて良かった。

 そうであれば、ルークは王都を守り切れたとは思うが、被害甚大な上、更にはここでの遭遇戦も厳しいものとなっただろう。


「そうだ、鉄山公。

 リーアに会ったぞ?

 そっちに帰って来たら連絡をくれ。

 リーア、いや、レイア・ハートリーの兄が生きて俺の軍に居る。

 再会させてやりたいからな」


「……リーアが名乗ったのか?

 お主に?」

 鉄山公が驚きの表情。


 俺は肩をすくめるだけで詳しいことは答えないでおいた。

 事情は知ってたか、そりゃそうだな。


 なんでも俺が焼いた街に、帝国も諜報部隊を送っていたようだ。

 その時に情報収集も兼ねて、1人の娘がガレキから救い出された。

 それがリーアだった。


 行き場を無くしたリーアを鉄山公が預かり副官として連れていた、とそういうことだそうだ。


「これから皇帝のところに行くんだが、鉄山公も同行してくれるか?」

「是非もなし、じゃな」


 俺たちがのんびり話していると、俺の服の袖をメラクルがちょいちょいと引っ張る。


 なんだ、暇になったのか?

 メラクルは手で口元を隠すようにしながら、コソコソッと。


 何というか、こういう行動が実にメラクルらしいというか、空気を読んでコッソリとしているようで、全然コッソリしていない。


「ねえ、なんでのんびり話してんの?

 帝国兵が迫って来てるんじゃないの?」


 まあ確かに周りから見れば、俺と鉄山公がのんびり話している『ように見える』状況の方が、空気を読んでいないようにも感じられるかもな。


「お互い時間稼ぎしているんだから、これでいいんだよ。

 それに今の会話で大体の状況は読み切れたからな」


 鉄山公を含めた帝国軍残党1100は王都攻略に失敗し、帰還の途上である。

 王都陽動軍2000が1100になった。

 半数近くになる大敗北である。


 王都での戦闘の経緯としては、まず鉄山公と同行している陽動軍の軍団長アルモンド・ラッセンベルク侯爵が王都のルークたちを挑発。


 どうせ籠城して腰抜けとかどうとか。


 そこをルークが笑いながら、お前ら帝国軍の状況など悪逆非道のハバネロ公爵に全て読み切られてるぞ、ザマァ。


 陽動部隊の数だけでなく、軍の全容、指揮官、どこで本隊と別れ、どのような作戦を立てたのか、全てを言い当てられ帝国軍は動揺。


 鉄山公と軍団長アルモンドは言い合いとなる。


 軍団長アルモンドは即座に引き返し本隊と合流すべし。

 鉄山公は今から本隊のところに行っても到底間に合わないから、王都を早急に攻略すべしと。


 まだルークの言葉だけだから、言い当てられたとしても、それで撤退は合理的ではないから鉄山公が王都攻略を主張するのは当然とも言える。


 どっちがどっちの主張か、本当のところは分からんがどちらでも同じ。

 大事なことは帝国軍は一つにまとまれなかったということだ。


 これについては俺も予想外だ。

 まあ、ラッキーはありがたく受け取ろう!


 とまあ、王都攻城の前の帝国軍の様子はそんな感じだ。


 俺がそう言うと、メラクルは不思議そうに小首を傾げた。

「あー、うん、うん?」


 よく分からないか?

 まあ、そこからどうなったかがピンと来ないだろうから、まだ説明してやろう。


 と言っても、今更、そんなに重要な話でもないけどな。

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