第51話リターン3 ー悪夢

 これは夢だ。

 ガイアは気付いた。

 未来という記憶の悪夢。


 始まりは少しだけ未来の夢を見る程度だった。

 少しずつ少しずつ悪夢は広がっていった。

 そして繰り返し繰り返し、ついに悪夢は最期の時を見せる。


 邪神には辛くも……本当に様々な者を犠牲にして、ようやく打倒することが出来た。

 これで全てが終わり平和が訪れた、そう思っていた。


 それからすぐ。

 悪魔神なる存在により、モンスターが世界全土で一斉に活発化。

 それは邪神が起こす災厄の比ではなかった。


 邪神を打倒したガイアたちのチームは最強部隊であり、戦局を左右出来るほどの強さを持つが所詮は1部隊。

 世界規模のモンスターの発生は対処が到底間に合うものではない。


 次第に追い詰められ補給を断たれ。



 ……そして、ガイアたちは全滅した。





 1人剣を振っていた。

 仲間はもう全員力尽きて、もう自分しか残っていない。


 神剣アルカディアを振りながら、襲いくるモンスターの山、山。

 邪神をどうにか倒した。

 それで世界は救われる、そう思っていた。


 まさか、邪神の封印そのものが悪魔のかまふただったなんて思いもしなかった。

 だから過去の英雄たちは邪神を倒すのではなく、封印したのだ。


 そんなこと知らない、知るわけがない。

 どの道、邪神を再封印する術なんかなかった。

 それに邪神はその封印を自ら食い破ったのだから、倒すしかなかった。


 泣きそうだった。

 泣いてたのかもしれない。

 何処にも居ない『誰か』に助けを呼んでいたのかもしれない。

 もう自分でも分からない。


 悪魔の窯から這い出た魔神たちは世界各地で暴れた。

 一つの戦場、一部隊であればガイアたちは最強で、魔神であれど負けたりはしなかった。


 でも魔神は世界に広がって侵攻した。

 あっちを助ければ、こちらが壊滅し、こちらを救いにいけば、あちらが壊滅し……もうどうしようもなく詰んでいた。


 自分が倒れたら終わり、もう何もかもが終わりなのだと実感する他なかった。


 仲間は皆倒れ、どれだけ1人で戦っていたか分からない。

 預言者と呼ばれた双子の姉に神剣アルカディアにはめ込むエメラルドの宝石を託された。

 彼女の生命の全てを注ぎ込んだ奇跡を起こす宝石だ。


 コレと神剣アルカディアが揃った時、一度だけ奇跡を起こすという。

 祈りを司るという聖剣プレイアと対になる剣。


 真実は分からないし確かめようもない。

 どうやって使うかもガイアは知らない。

 ただ託された。


 魔神の一体の剣がガイアの身体を突き刺した。

 他の魔神も四方から彼女を突き刺した。

「あっ……」

 常に自信に満ち溢れていた彼女が漏らした弱々しい吐息。


 虚ろになっていく視界の中は彼女以外、生きている人は居ない。

 後に託せる何かも、意志を継いでくれる誰かも……もう存在しない。


 泣きそうだった。

 ……いいや、泣いていた。

「誰か、助けてよ……」


 彼女のエメラルドの目から溢れた雫が黒色の液体まみれの剣に触れた時、宝石から光が溢れた。


 そして……。





 ガイアが目覚めた時、村長宅の暗い室内の簡易なベッドの上。

 彼女は自分が未来の記憶の夢を見ていたことに気付いた。

 自分が泣いていたことも。


 涙の後を手の甲でぬぐい半身を起こし、自らの手をさする。

 血が通っていることを確かめるように。


 『以前のような』自信に満ち溢れた彼女はそこには居ない。

 年相応の弱々しい少女がそこにいるだけ。

 それをもしハバネロが見たならば、ゲーム設定とのあまりの違いにひどく困惑することは間違いなかった。


 ある日突然、夢で『未来の記憶』を見て目覚めてから、聖女の姉……夢の中では預言者と呼ばれていたが、彼女に会いに行ったが行方不明になっていた。


 仕方なくガイアは1人で、未来を変えようと世界を回った。

 ……でも、何も変わらなかった。

 早くから邪神の脅威とその背後による悪魔神の存在を警告して回ったが、取り合って貰えなかった。


 今の彼女は最強としての名はあれど、さしたる実績もなく、後ろ盾になってくれていた姉も行方知らず。

 神剣アルカディアにはめ込まれていたエメラルドの宝石も姿形もない。


 ガイアにはどうしていいか分からなかった。

 だから、かつての仲間に会いに行った。

 そこには変わらない、邪神を倒すために共に世界を駆け回った仲間が生きていて、ガイアはその時初めて嬉しくて笑った。

 今はその合流した仲間と共に行動している。


 それでも……自分たちは詰んでいるのだ。

 もぎ取られる未来にただ真っ直ぐと進んで行く。


 ガイアは暗い部屋の中で膝を抱え、震えながらうずくまる。

 怖くて仕方ない。

 やがて努力の果てに、守りたかった全てをもぎ取られるのだ。


「誰かぁぁ……助けてよぉ」


 そこに居たのは世界最強の剣士ではなく、うずくまり震えながら、か細く助けを求める1人の少女がいるだけ。

 救いは、来ない。


 今はまだ。








第1章 メラクルの章 了

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