第49話それぞれの②
傲慢で悪虐非道だったはずの公爵閣下に急に愛されて混乱状態です。
何を言っているか分からないですよね?
直面している私が1番分かりません。
なーにーがー起きてるのーーーー!?
私が邪神調査の手掛かりを求め、訪れたその村にその人は突然、現れました。
「何してるんですか? ハバネロ公爵閣下」
なんで分かったと言われても、私にもよく分からない。
剣は確かによく見てみれば、公爵家の宝剣である滅剣サンザリオン2である。
だけど、そんなのは近付いて初めて分かったこと。
その前に背格好が同じだった、髪色も、変な仮面で隠していたけど顔の造形も、そして1番は昔の、あの日の彼と同じ優しい目をしていた。
無理矢理唇を奪った傲慢なハバネロ公爵とは別人で、まるであの日の彼をそのまま大人にしたような……そんな彼だったから。
私は大公国の姫だが、聖騎士でもある。
そのため、ここ最近モンスターによる被害が多くなっており、国の学者がそれに対し邪神との関連性を指摘した。
邪神とモンスターの関係性があることは周知の事実でしたが、今回のモンスターの発生、特に滅多に見ることになかった大型モンスター、それが次第に多く見かけられるようになった。
まだ甚大な被害こそ出ていないですが、公爵領内のある町では複数体の大型モンスターにおそわれ、偶然、盗賊討伐のため出向いて来ていた騎士団により壊滅の危機を免れたそうだ。
正直、もどかしさを感じる。
何をすれば良いのか分からないけれど、急いでなんとかしないといけない、そんな焦燥感。
私の国、大公国は古い過去に邪神を封印した聖騎士の末裔の国で、今もその救世の精神が息づいている。
国自体は小国であり、豊かとは言えないけれど、大公国の聖騎士と言えばその高潔なる精神により市井の人々からも一目置かれ尊敬されている。
そんな国で生まれ育っているので、私も姫でありながら王国の中の貴族の嗜みのようなあれこれより、剣の方がずっと好きだ。
それが行き過ぎて、侍女やメイド、女性聖騎士たちに恋バナに巻き込まれると、友人であるメラクルと2人して目が上を向く癖が出来てしまった。
それほど恋愛ごとに縁がない。
私、婚約者居るけどね!
だけど、私の婚約者の話をすると皆に痛ましそうな顔をされる。
メラクルなんて本気で悔しそうに、目に涙を浮かべたりしていた。
要するにそれほど、私の婚約相手は酷かったのだ。
小国である大公国は隣国である王国よりずっと貧しい。
そんな中にあって広大な公爵領から、いくつもの無茶を言われてきた。
時には公爵領の街の立て直しのために、大公国から人を半強制的に招集し、奴隷の如く扱かわれたこともあった。
そんな中で私がそのハバネロ公爵と婚約を結ぶことになったのは、はっきり言ってしまえば人質としての役割だ。
王国並びにハバネロ公爵は、最終的に大公国を吸収してしまうことを目的としているのを態度に出している。
主権国家に対する扱いではないのにも関わらず、小国である大公国にはそれに逆らうだけの力が無かった。
一般の人々は王国並びに公爵からの理不尽な要求や公爵領から流れて来た人からの心に触れ王国と公爵への反感を募らせ、聖騎士や大公国に仕える者たちは自国を蔑ろにされる苦痛に耐えていた。
誰もがあの残虐で傲慢なハバネロ公爵を嫌い、中には憎んでいる人もいた。
……私は、どちらでもなかった。
何も感じなかった訳ではもちろんない。
母国を想う気持ちはあるし、相手の傲慢さに歯噛みすることもある。
だけど私は大公国の姫であり、大好きな母国を心を閉ざしても守る義務がある。
憎しみに心を曇らせたままで守れるほど、私が背負っているものは易くはない。
それに……。
婚約する前に、私はまだ10歳になるかならないかの頃。
少しだけ彼と交流があった。
その頃の彼はまだ今のような横暴な態度はなく、むしろ少年ながら聖なる騎士としての風格があり、子供心に憧れた。
その彼に言われた。
『婚約者になるんだ。俺がユリーナを守るから』
とても深く優しい目で。
だからその時、私はこう答えた。
『だったら私が……』
「貴方の護りたいものを護るわ。」
村の村長宅の一室。
私は枕で顔を隠して、1人で足をバタバタさせて悶えた。
というかですね!
誰、あれ!?
何? なんなの!?
なんで私に求婚してるのあの人!?
なんでいきなり愛を囁いてるの!?
『可愛いな』
ハバネロの声が頭にリフレインして、私はさらに声を我慢したまま悶える。
私は姫とはいえ、仕事に忙しい貧乏小国の聖騎士兼務の姫である。
つまり! 仕事ばかりで色恋沙汰には全く耐性が無いのであった!!
というか公爵閣下、暴虐残虐どこ行った!?
何が起きたら、こんな短期間であんなに人が変わるの!?
何? キスで性格変えちゃった?
私の唇は人の人格を変える効果がありますって……あるかぁぁあああ!!??
『……頼むよ』
その言葉を思い出し、私はバタバタしていた足をゆっくりと下ろす。
仮面をずらし、見せた素顔は確かにハバネロ公爵のもの。
だけど、あの日と同じとても優しい目をしていた。
何を隠しているのかは分からない。
『……俺に
悪意とは何なのか?
王国の貴族社会は魑魅魍魎の世界と聞いたことはある。
だけど所詮、想像でしかない。
婚約者でありながら、彼が本当はどう思っていたか。
首から下げた金属片を取り出す。
これがあれば、通信が可能だと言う。
それに多少なりとも魔導を通し、やろうと思えば魔剣と同じことも出来る、らしい。
私が身につけていたネックレスを『赤騎士への報酬』として渡すと、代わりにこれをくれた。
「なんだか、分からないことだらけ」
誰かに話を聞いてもらいたいと思った。
頭に今は任務で大公国を離れている茜色の髪の友人が頭に浮かぶ。
任務出発前、いつも明るい彼女らしくない思い詰めた顔をしていた。
「無理をしていないといいけど……」
真っ直ぐで素直なんだけど、少し思い込みが激しいのも彼女の特徴だ。
妙な胸騒ぎが、していた。
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