第169話:帝国兵と交渉
「帝国の邪魔をするな。世界を破滅に導きたくなければな」
フェンネル王国と帝国の間で揉め事が続いてると聞いていたけど、ここまで話し合いができないと当然だろう。
帝国側は自分達が見て考えたことだけが正義だと思い込んでいる。
国家レベルで頭が固いなんて厄介すぎるよ。
「森を調査してもエルフの姿が確認できず、魔力の正体もハッキリつかめなかった場合、どうするつもりなんですか?」
「不可解な魔力の正体がわからぬ限り、燃やし尽くすのみだ。世界の平和を守るためには、犠牲がつきもの。森1つでエルフの脅威が去るなら安いものだろう」
自国のことならともかく、よく他国でこんなことができるな。
普通の感覚だと、あり得ないことだぞ。
勝手に他国の森に火を付けてしまえば、侵略行為と見なされるだろう。
僕達が目撃している以上、帝国側の潜伏兵の仕業だと判断することができる。
奇襲されたフェンネル王国側としては、黙っているわけにもいかない。
ここで止めないと、本当に戦争の引き金を引くことになるぞ。
森を荒らす愚かな者を捕らえるだけの依頼だったのに、まさかこんなことに巻き込まれるなんて。
冒険者が請け負ってもいい内容じゃないだろう。
しかし、雑魚なのに有名人になりつつある醤油戦士は、今や影響力がある人間と言っても過言ではない。
直接フィオナさんにも影響することだし、ここは説得するしかないか。
「フェンネル王国はいま、獣人国と協力関係にあります。帝国は2か国を相手にして、戦争を起こすつもりですか?」
「それが……世界の平和に繋がるならな。帝国は迷いなく戦争を選ぶ」
まっすぐ僕だけを見て低い声で言い放った彼女の言葉は、嘘だと思えなかった。
脅しをかけたつもりだったのに、かえって不利な状況に追い込まれたように感じる。
「私は嘘などつかない。特異体質で魔力を感じると話したよな。お前が全く魔力を持たないことも理解しているぞ」
この人が魔力を感じることは確かだろう。
チョロチョロの言う通り、一般人にはハイエルフと気付かれないようだ。
帝国にハイエルフだとバレれば、即効で抹殺対象になっていたよ。
こうなったら、イチかバチかの賭けに出よう。
原因を作った張本人に責任を取らせるという、シンプルな方法を。
「もしエルフではないと証明できれば、森の調査を断念してくれますか?」
「エルフじゃないと証明できればな。ハッキリ言って、この森は普通の森じゃない。近付くまでわからなかったが、特殊な結界で魔力が感知できなくなっている。そうでもしなければ、貴様達の奇襲なんて受けることはなかったからな」
言われてみれば、確かにそうだな。
魔力を感知できれば、奇襲なんて受けるはずもない。
調査隊が他国で好き勝手できるのも、魔力を感知して悟られないように動いているからだろう。
「わかりました。条件付きになりますが、ギルドを経由してフェンネル王国に調査を協力してもらいましょう」
「フン、お前にそんな権限などないだろう。冒険者と言ったが、口の回るガキにしか思えんぞ」
ふっ、醤油戦士を舐められても困りますね。
おいしい醤油の味しかしませんから、ペロペロ舐めていただいても構いませんが。
「人を見かけで判断しない方がいいですよ。あなたよりも強い獣人達を従えているのが、その証拠です。僕はフェンネル王国にも獣人国にも話を通せる男ですからね」
「一気に胡散臭くなった。お前は信用できん」
えぇー?! 珍しく事実だけで塗り固めた僕のアピールポイントが、まさかの全否定だって?!
32万の強靭なメンタルがボロボロになりますよ。
「本当のことだにゃ。親分は獣人国を救ったヒーローだにゃ」
えっ、やだ。ヒーローなんて恥ずかしい。
もっと言ってやってよ、タマちゃん。
「そうだニャ。親分はキマイラを倒して、獣王様が倒せなかった魔物まで倒したスゴい人なんだニャ。親分がいたからこそ、獣人国はフェンネル王国と手を組むことになったニャ」
そ、そんなに褒めないでよ。
クロちゃんは褒め上手なんだから~。
もっと僕の良いところ、120個くらい言ってくれてもいいよ。
「ま、待て! き、キマイラだと?! 伝説の合成獣と言われ、尻尾が蛇になっている災害級の魔物か! じ、実在したと言うのか?!」
今までと雰囲気が一変するように、S気女性が話に食いついてきた。
目をキラキラと輝かせる姿は、子供のような無邪気さがある。
「そうだニャ、クロ達もボコボコにされた正真正銘の災害級の魔物ニャ」
「ケルベロスにヒュドラ、ミスリルタートルまで、親分の力なしでは勝てなかったにゃ」
「な、な、な、なにーーー?! 9つの首が全て独立して動くと伝わる、伝説のドラゴンであるヒュドラだと?! 地獄の万人と呼ばれるケルベロスまで、お前達は見たことがあると言うのか。しかも、全身が純度100%のミスリルで作られた土竜、ミスリルタートルまで討伐? 出会うことだけでも困難だというのに、そんな数々の災害級の魔物と退治して生き抜いたとは」
はっはーん、なんとなくわかってきたよ。
解体好きのレフィーさんのように、この人は強い魔物フェチだな。
見たこともないのに、やたらと詳しいのも納得ができる。
早口でまくし立てる姿は、オタク特有の症状といってもいいだろう。
1つだけ気になるのは、にゃんにゃんの話は全てトップシークレットだということ。
フェンネル王国、獣人国、冒険者ギルドで情報に規制をかけているから。
敵対しようとする、帝国の人間が知っていい情報ではない。
口封じをする必要があるな。
お、大人の口封じは、き、キスだとアズキさんに教えてもらいましたし。
気の強い女性は、嫌いではありませんよ?
どちらかといえば、好きなタイプですから。
できれば、口封じのキスをリードしていただけると嬉しいです。
「そうですね、信用性を出すために面白いものをお見せしましょうか?」
キスができるかもしれないと思った僕は、好感度を上昇する方向へシフトしていく。
アイテムボックスから、レフィーさんが解体してくれたキマイラの皮を取り出す。
「な、なんだその魔物の皮は! は、初めて見るぞーーー!!」
興味のある眼差しが眩しい。
キマイラの皮を見ているだけなのに、僕に興味があるのかと誤解してしまうよ。
「解体屋さんが2週間かけて解体してくれた、キマイラの皮です。魔力を感じるあなたなら、この素材の凄さがわかると思いますよ」
「魔力を感じるといっても、死んだ魔物の素材に……な、なんだこれは!? 魔物の皮の表面に濃厚な魔力が流れている。1本1本丁寧に編み込まれた糸のような緻密な魔力。こ、これが、災害級の魔物素材というものか……次元が違う」
魔力を感知できることが説得に繋がるとは思わなかったよ。
想像以上に正確に感知することにも驚いている。
そして、好感度が急上昇しすぎていることにもね。
敵対しているのに、尊敬の眼差しで見られても困る。
禁断の恋というシチュエーション……、嫌いじゃないですよ。
「まぁ僕はこんなものを持ち歩くぐらい、冒険者としてレベルが高いということです。ギルドにも国にも話を通せますから、協力関係になるのも悪くないと思いますよ」
「い、いや、て、帝国はこ、こんなことぐらいで、く、屈しないぞ」
言葉と行動が合ってませんよ。
触りたそうに手を差し出し、なぜよだれを垂らしているんですか。
目が虚ろになっているのは、後一押しって言ってるようなものです。
「協力するなら、少しだけ触ってもいいですよ」
「協力しよう」
ふっ、チョロい女だぜ。
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