第110話:作戦会議

「カツ丼様はこういうポーズが似合う」


 1度カツ丼の話に入ってしまったら、3人|(タマ・クロ・スズ)はカツ丼愛が強すぎて抜け出せなくなってしまった。

 今は擬人化したらカツ丼はどういうポーズを取るかで、盛り上がっている。

 ちなみに、スズの取ったポーズは非常口のマークだ。


 全く共感できないので無視していく。


 真剣に聞いているアルフレッド王子が可哀想に思えてきたので、部屋の隅っこに引っ張り出し、個人的に話をする。

 シロップさんは王女様と仲良く雑談しているよ。


「アルフレッド王子、あれは気にしないでください。99%行き過ぎた表現ですから」


「しかし、タマもクロも嘘を付くような者ではない。今だって熱心に話し合っているぞ」


 言いたいことはわかるし、アルフレッド王子が言っていることは正しい。

 どう聞いたとしても、カツ丼が食べ物と思えないような表現をしたからね。

 なんだよ、カツ丼は絶対神って。


 おいしいのは認めるけど、絶対神と崇めた人間は君が初めてだぞ。


「嘘を付いてるつもりはないんだと思いますけど、激しく誤解を生む表現なんですよ。いったんカツ丼のことは忘れてください」


「相手は絶対神なのに、そんな態度をとってもいいのか?」


「構いませんよ、神として崇めているのは3人だけですから。率直に聞きますけど、フェンネル王国から協力要請が何度かいってますよね。なんで獣人国は引き受けてくれなかったんですか? スズはそこが気になってるみたいで、警戒しているんですよ」


 苦笑いをしたアルフレッド王子は、気まずそうに頭を掻き始めた。


 今まで協力を拒んでいただけに、申し訳ない気持ちがあるんだろう。

 明らかに自分勝手なことを言っているのは、獣人側だからね。


「獣人国は強さが全てという考え方が根強くてな。年配の獣人ほど、人族との協力関係を拒否していたんだ。俺やメイプルはそんな古い考えには縛られないが、父上はそうじゃない。協力したいなら同等の力を示せと、無茶なことしか言わないんだ。父上は歴代でも最強と言われるほどの強者だからな」


「じゃあ、今の獣人国ってどうなってるんですか? 第2王子が黒ローブに魔物を召喚させて、獣王を倒したんですよね。タマちゃんから幽閉されてるって聞きましたけど」


 チラッとタマちゃんの方を見てみると、カツ丼が言いそうな台詞を3人で考えていた。

 黒板みたいなものには『パワーこそ正義・俺の産毛に触るな・干乾びたイモムシのようだ』と、意味の分からない言葉が並んでいる。


 真面目に話してるこっちがバカみたいに思えてくるよ。

 普段クンカクンカされて、会議をサボる僕が思うのも変な話だけどさ。


「弟のステファンは父上を公開処刑したいみたいでな。水も食料も与えずに弱るのを待っている。あいつは力を示して獣人国を乗っ取ろうと考えたみたいだが、はっきり言って滅茶苦茶だ。街を破壊して災害級の魔物を呼び寄せても、誰も付いていくはずがない。地上にいる獣人達も、弟のステファンに従っていると見せかけて、討ち取る準備を整えている。虫のいいことだとわかっているが、人族の力を貸してほしい」


 こんな子供である僕に頭を下げるんだから、アルフレッド王子の思いは本物だろう。

 広場にいた獣人達も、僕達を見て反対するような声はなかった。

 古い考えのままではダメだと、アルフレッド王子がしっかり説得したのかもしれない。


「魔物は完璧に制御されているんですか? 3体の災害級が召喚されたって聞きましたけど」


「無闇に暴れ回っていないから、ある程度コントロール下に置いてるはずだ。街はかなり壊されたが、地上にいる獣人達に手を出していない。だが、召喚された魔物は合計で4体になった。キマイラ・ヒュドラ・ケルベロスという魔物に加え、先日ミスリルタートルを召喚する儀式が行われたんだ」


 3体だけしか召喚できないんじゃなかったんだ。

 でも、儀式を必要とするなら何度も召喚はできないはず。


「ミスリルタートルは強いんですか?」


「あぁ、全身ミスリルで覆われている土龍のような亀だ。これ以上召喚されないようにするためにも、できるだけ早めに黒ローブを討つ必要があるんだが。黒ローブ本人も街に放たれている魔物も災害級となってしまっては……絶望的だな」


 唇をグッと噛み締める姿は、自分の無力を恥じているようだった。


 昔の考えに縛られないといっても、アルフレッド王子も獣人であることに違いはない。

 民が武力で制圧されている時こそ、力を示して助けてあげたいんだろう。


 それにしても、ヒュドラやケルベロスのようなボス級の魔物に、土龍のようなミスリルタートルか。

 普通に戦って勝てるような相手じゃないな。

 ステ3倍のシロップさんですら、キマイラにダメージを与えることもできなかったんだ。


 このまま召喚され続けたら、本当に世界を滅ぼしかねない。


 パッとスズ達の方を見ると、『勝利を呼び込む絶対神 カツ丼』という謎のキャッチコピーが決まっていた。

 確かに受験にカツとか、勝利にカツっていう語呂合わせで、縁起がいいと思うけどね。


「だいたい話はわかりました。手前の広場にいた人達は戦闘できると考えていいんですか?」


「あぁ、冒険者で言うならAランクの扱いになる。だが、災害級の魔物の前では赤子同然だからな。地上にいる獣人達は、B・Cランク程度だと思ってもらえればいい」


 パッと見ただけでも、手前の広場に100人ぐらい集まっていた。

 アルフレッド王子の言う通り、料理を食べなかったスズはキマイラに一瞬で跳ね返されていたから、戦力外といっても過言ではないだろう。


 でも、うまいことシロップさんみたいに3倍にできれば、充分渡り合える戦力となる。


 キマイラみたいなラッキーで勝つパターンは考えるべきじゃない。

 ヒュドラなんて9つの首があるはずだから、大きな戦力で挑む必要がある。

 

 ユニークスキルを使うしか勝つ方法はないだろう。


 勝利するために、100人の獣人達を強化してしまえばいいんだ。

 Aランクレベルの力を持っているなら、覚醒しなくても全員Sランクレベルにたどり着くはず。

 獣王も助け出してパワーアップさせることができれば、災害級の魔物でも勝つことは難しくないだろう。


 けど、かなりのリスクを背負うことになる。


 戦った後、大勢の獣人達が裏切らないなんて、都合の良い結果は考えられない。

 大騒ぎになるだろうから、獣人国全体にユニークスキルが知れ渡ると考えるべきだ。


 第1王子や王女様、獣王様ぐらいだったら口止めしやすいけど、一般市民になってしまうとな……。

 いや、それでも、モフモフとクンカクンカを守るためには必要なことだろう。

 偉大なる文化を後世に繋いでいくんだ。


 ハイエルフである僕がエルフの遺志を受け継ぎ、クンカクンカパレードを守り抜くべきだ!


 かといって、今まで支え続けてくれたスズにも賛同してもらいたい。

 王子に火花をバチバチ飛ばしてたのも、僕のことを思っているからだ。


 たとえ、カツ丼に祈りを捧げていたとしても。

 カツ丼の舞とか言いながら、ロボットダンスを踊り出そうとも。

 カツ丼の絵を描いてキャラクター化しようとも。


 お願いだから、王女様まで仲間に入らないでくれ。

 シロップさんは最初から諦めてるからいいけど。


 5人でロボットダンスをする姿を見て、僕と王子はどんな気持ちでいればいいの?

 言葉にできない光景を真顔で見守ることしかできないからね。




 いや、これは使えるんじゃないか?

 本当にカツ丼を絶対神に仕立て上げてしまえば……。




「アルフレッド王子、獣人の覚醒について教えてもらってもいいですか?」


 クロちゃんが選ばれた者のみが到達できる境地、と言っていた。


 今までは獣人が覚醒してステ3倍になると思っていたけど、リリアさんが3倍になったことで、条件がわからなくなっているんだ。

 スズは何を食べても3倍にならないし。


「己の中に眠る潜在能力を解放した状態が覚醒であり、獣人の真の強さと言われている。たどり着く者が圧倒的に少ないため、神に選ばれた者のみが使えるだろうと。父上は現役時代に覚醒へたどり着いたみたいだが、年を取ってからは使えなくなったらしい。俺にその資格があれば、こんな現状を打開できたかもしれないがな。力に溺れたくはないが、獣人である以上は憧れてしまう気持ちもあるよ」


 神に選ばれた者か、好都合だな。

 全員覚醒する可能性があるなら、最強のモフモフ軍団が誕生するかもしれない。


「そうですか、わかりました。あっ、ちょっと待ってくださいね。……えぇ、えぇ。な、なんですとーーー!?」


 相変わらず僕の演技は酷い。

 大根役者という言葉が失礼なぐらい、役者に向いていないと思う。


「いま、絶対神であるカツ丼様からお告げがありました」


「「「「「 カツ丼様が?! 」」」」」


 なぜか後ろの5人がつれてしまった。

 1番つりたかった王子は首を傾げている。


「唯一無二の絶対神であるカツ丼様が、この戦いは不本意であるため、一時的に力を貸して下さるそうです。パワーの一部を手渡し、資格のある者には覚醒の境地へたどり着かせてやろう、とおしゃっています」


 ユニークスキルで起こるパワーアップを、絶対神であるカツ丼様のせいにする作戦だ。

 ちょうどいいキャッチコピーもできてたし、なんとなくいける気がする。


「おい、さっきは誤解だの忘れろだの言ってなかったか?」


 王子の突っ込みは鋭くて困る。

 でも大丈夫だ、早くもカツ丼様には熱心な信者が付いている。

 何も問題はない。


「にゃにゃ! 罰が当たるにゃ」


「そうニャ、カツ丼様は獣人族をお救いしてくださる神様ニャ」


 にゃんにゃんの受け入れは早い。


「そうだワン、カツ丼様に謝るんだワン」


 王女の受け入れはもっと早かった。

 まだ食べてもいないのに、気付けば信者になっている。


 パッとスズを見ると、親指を突き出してグーサインをビシッと決めてきた。


 君の仕業だったのか。

 ファインプレイというべきか、食べ物の情熱が強すぎるというべきか。


 複雑な気持ちになりながらも、アルフレッド王子と向き合って真顔で話していく。


「いいですか、アルフレッド王子。カツ丼様を裏切ることなく信仰すれば、戦いに勝利をもたらします。シロップさんはカツ丼様を崇拝してから、覚醒の境地へたどり着きましたよ」


「な、なんだと?! シロップ、本当か?」


 今日1番大きな声で驚いたアルフレッド王子は、大きく取り乱した。

 それほど獣人にとって覚醒というのは、特別なものなんだろう。


「カツ丼様は偉大だからね~」


 ニンジンでしか覚醒しないにも関わらず、シロップさんは話を合わせてくれた。

 空気を読むという知的な一面も持ってたんだね。


 ……いや、エアーで食べ始める姿はカツ丼になっているな。

 カツを一切れパクッといった後、卵がかかっていないご飯を探り出し、ガガガッとご飯をかきこむような仕草を見せてくる。


 彼女は演技をしていなかったため、奇跡的なフォローだった。


 それでも、獣王を助けたい、獣人の民を助けたい思いが強いアルフレッド王子には、有効的な一言だ。

 僕の両手をガシッとつかんで、すがるような瞳でみつめてくるほどに。


「頼む、俺もカツ丼様を信仰する。だから、戦える力を俺にくれ!!」

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