第84話:雄叫び
スズに引っ張られて、僕の部屋までたどり着く。
一緒に部屋に入ると、スズは立ち尽くしたまま動かなかった。
真っ暗な部屋の中で、ポタッポタッと床に涙が落ちる音だけ聞こえてくる。
普段はしっかりしているけど、スズはまだ15歳。
何よりお姉ちゃんが大好きだし、この世で唯一の身内。
初デートで一緒に買い物をした時も、リーンベルさんと食べるための果物を買いに行ったぐらいだ。
お姉ちゃんと食べたいからと、買うだけ買ってまだ1口も食べていない。
新しい家で「お風呂に一緒に入りたい」って楽しみにしていたし、他にも一緒にやりたいことや話したいことがいっぱいあっただろう。
でも、実際に帰ってきたらあの調子だもんね。
今のスズはとても複雑な気持ちに違いない。
自分よりも食欲に走ってしまう姉を許せない気持ちもあれば、また一緒に仲良く過ごしたい気持ちもあるはず。
成り行きとはいえ、喧嘩もしたくなかったと思う。
じゃないと、涙を流して悲しまないよ。
スズを慰めてあげたいけど、イケメンじゃないからやり方がわからない。
でも、猫っぽいスズなら僕と一緒の方法で大丈夫かもしれない。
頭を撫でて、落ち着かせてみようと思う。
スズの頭を優しく撫で始めると、ゆっくりと体を預けてきた。
申し訳ないけど、それだけで僕の心臓はヤバくなってしまう。
純粋にスズを慰めたいと思う気持ちが98%、残り2%はやましい気持ちがある。
そのせいか、心臓が狂ったように動いてしまう。
こんな時に興奮しててごめんね。
スズのことを少しでも意識してしまうとダメなんだ。
1度意識してしまうと、体がどんどん緊張してしまう。
撫でている手の動きがぎこちなくなり、まるでロボットのような動きで撫でることしかできない。
すると、スズは物足りなく感じたのか、甘えるように抱きついてきた。
こんな時におっぱいの柔らかさを意識してしまう僕は完全にクソ野郎だろう。
自分の欲求を抑えきれず、かなり興奮している。
頭の中の80%はおっぱい、20%はスズを心配しているよ。
……リーンベルさんのことを責められない立場だな。
でも落ち込むスズは見たくないし、元気になってほしいと思っているのも事実。
だから、僕は身を捧げてスズを元気付ける。
必死に自分の心を落ち着けて、スズの背中に片手を回す。
もう片方の手で、頭を撫でてあげることも忘れない。
今までの僕なら、即効で「あぁぁぁぁぁ」とか叫んで発狂しているだろう。
でも、これだけは言わせてほしい。
惚れた女が泣いてるんだぜ、支えてやるのが男ってもんだろう。
今日の僕は一味違うと自分でもわかる。
意地でもスズを支えてあげようと思う心は、愛という原動力で動いている。
エロパワーをラブパワーに変換して、愛で包み込んであげるんだ。
きっと僕を看病してくれた時も、スズはこういう気持ちだったに違いない。
お互いに支え合うことで、僕達は共に人生を歩んでいくんだ。
たとえ心臓が危険領域に達して、意味不明な雄たけびを上げ始めたって構わない。
そんなもの、気合でねじ伏せてくれるわ!
ドドドドドドドドド ヒエーーー
黙るがいい!
今は男として、スズさんを支える見せ場のシーンなんだよ。
4年に1度しかない男らしさを出す場面なんだ。
貴様なんぞに構ってる暇はない!
雄叫びを上げたからって、貴様の好きにはさせんぞ!
あっ、スズさん、ギュッとするのはやめて。
ちょっと待って、そんなにギュッとしないで。
おっぱいがぶにゅって潰れるくらいまで抱きしめちゃダメだよ。
腰砕けになっちゃうから。
いま精一杯男らしさを出して頑張ってたのに、なんで攻めてくるの?
もう、やだ、女らしさの方が出てきちゃう。
「……落ち着く」
あっ、そうか。前に速すぎる心音で落ち着くって言ってたよね。
もしかして、僕を興奮させて勝手に落ち着いているのかな。
セルフサービスみたいだけど、君が喜んでくれるなら僕は構わないよ。
それなら、僕の男らしさは全然必要なかったね。
完全に僕は物扱いだったんだろう。
しばらくスズは心臓の雄叫びで心を落ち着けた後、そのまま抱きかかえるようにベッドへ運んでくれた。
手慣れた動きで腰砕けになっている僕を布団に入れた後、わざわざ足元へ行って眠りにつく。
なんで一緒に布団の中で眠ろうとしないんだろう。
普通寂しい時は添い寝したり、ギュッと抱きついて寝たりするんじゃないかな。
まぁ君が落ち着いてくれたなら、それでいいけどね。
- 翌朝 -
頭に心地いい感触が走った。
このメロメロになってしまう刺激で起こされるのは、まさに至高である。
目を開けて、ゆっくりと撫でてくれるフィオナさんを見上げると、嬉しそうな笑顔で迎えてくれた。
完璧なお姉ちゃんによる、ナデナデの起こし方だ。
「おはようございます。昨日はお風呂に入りましたか?」
「おはようございます。昨日は入る余裕がありませんでした」
「スズはもう少し寝かしておくので、お風呂に入ってきてください。お湯も沸いていますから」
元メイドさんとかじゃないよね?
「フィオナさんはすごいですね、王女様なのに。お姉ちゃんみたいで素敵です」
「お姉ちゃんはやめてください。私はお嫁さんですよ」
「細かいことは気にしないでください。フィオナさんみたいなお姉ちゃんが好きなんです。朝からとても癒されます」
「それでは、お風呂も一緒に入りましょうか?」
「それは嬉しいですけど、やめてください。僕の体が持ちません。頭撫でられるだけでヤバいんですから」
クスクス笑われながら、1人でお風呂場へ向かっていく。
あんなに望んでいたお風呂イベントなのに、現実味が帯びてくると逃げてしまう。
恥ずかしい思いが溢れちゃって、裸を見られたくないんだ。
こんなことで本当に卒業できるのかな……。
やっぱり気絶しているうちに、好き勝手弄んでもらうしか方法はない。
風呂場の脱衣所で服を脱いだら、体を洗わずにすぐ湯船に浸かっていく。
お風呂に入る時は、まず先に体を洗うのがマナーかもしれない。
でも、自分の家くらい許してほしい。
早速湯船に浸かると、心地良い温度で体の力がスーッと抜けるような感覚に陥った。
はぁ~、新居で見慣れない雰囲気だけど、1人でのんびり入るお風呂は落ち着くなー。
入浴剤が入ってないけど、充分に極楽な気分だよ。
寝ないように気を付けようと思いながらも、ついつい気持ち良くて目を閉じてしまう。
ガラガラ
あぁ、誰かが入ってきちゃったのかー。
これだけ広いんだもん、そりゃ他にもお客さんがいるよね。
お風呂は1人で入って楽しみたかったのに。
貸し切りみたいで、贅沢な気持ちになるんだもん。
……おかしくないか?
ここは露天風呂じゃなくて、国王にもらった家だ。
お客さんなんているわけがないだろう。
もし入ってくるとしたら、住んでいる人間以外に考えられない。
シロップさん、フィオナさん、スズ。
3人とも魅力的な女性達だ。
ドドドドドドド ヒエーーーーー
ヤバイ、女の子が入ってきたと思うだけで、『
早くも雄叫びを上げて喜んでいる。
何を期待してるんだよ、僕の心臓め。
まぁ、僕がお風呂に入ってると知ったうえで入って来るんだから、期待はしちゃうけど。
このタイミングで入ってくるとしたら、間違いなくフィオナさんだ。
だって、さっき一緒に入るって言ってたもん。
フィオナさんって僕のことを溺愛してくれているみたいだから、我慢できなかったのかな。
いや、きっとフィオナさんのことだから、強引に攻めないと展開が進まないと思ったのかもしれない。
逃げ腰の僕をそうやって追い込んでくれるのは、本当に嬉しいことだ。
彼女が意を決して裸でやってくるのなら、もう全てを受け入れようと思う。
結婚相手として、お風呂で1つになろうではないか。
ただし、リードはお任せしますので、よろしくお願い致します。
雄叫びを上げ続ける心臓が爆発しないように、右手で胸を押さえつける。
大きく深呼吸をして心の準備を整えると、姿を確認するため、ゆっくりと入り口の方へ振り向いていく。
そこには、バスタオル姿のリーンベルさんがいた。
タイム、意味がわからない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます