第19話:タマゴサンド

- 翌朝 -


 何かが顔に当たることに気付いて、目が覚める。

 左のほっぺたがつつかれているような感じだ。

 不思議に思って目を開けると、ほっぺたをツンツンしているリーンベルさんがいた。


「起きたかな? おはよう」


「え! あ、おはようございます」


「可愛い……寝顔だったよ?」


 そういってリーンベルさんは去っていった。


 僕の初心うぶな心を弄ぶなんて酷い!

 もっとお願いします、もっと弄ばれたいです。

 せ、責任を取ってください。


 ツンツン攻撃で目が覚めた僕は、2人のために朝ごはんを作っていく。


 ちなみにスズはまだ寝ている。

 ちょっと覗いてみたら、昨日リーンベルさんが猫と言っていた意味がわかったよ。

 というのも、リーンベルさんの布団の上で猫みたいに丸まって寝ていたんだ。


 あんな姿勢で寝たら寝違えになりそうだけど。

 ……僕もその布団で寝たかったよ。


 今日の朝ごはんは『タマゴサンド』と『心に響く大根のみそ汁』だ。


 みそ汁は材料が違うだけで作り方は同じ。

 心に響く大根をいちょう切りにして作ったよ。


 次に『タマゴサンド』だ。

 シンプルなサンドウィッチになるけどね。


 1.卵を割って、フライパンで炒り卵を作っている

 2.炒り卵に少し多めのマヨネーズを加えて混ぜる

 3.食パンの耳を切り落として、炒り卵を挟んで完成


 レタスやきゅうりを挟んで食べてもいいけど、今回は具材がないからタマゴのみ。

 でもタマゴとパンがふんわりしてて、朝食にはピッタリのサンドウィッチだよ。



 朝ごはんができたからスズを起こそう……と思ったら、気付けば椅子に座っていた。

 早くも箸を持って『準備は完了している』と言わんばかりに、箸を動かしてこっちを見てくる。


 ずいぶん食い意地をはっているな、スズ。

 その横でお茶を入れているリーンベルさんのお姉ちゃんっぷりがたまらないよ。


 すでにスズがよだれをたらしていたので、先にみそ汁だけ入れて渡してあげる。


 受け取ったスズはすぐに飲み始め、「あぁ、心に大根が響く優しいお味」と言いながら食べている。

 お茶を入れ終わったリーンベルさんも食べ始めると、「あぁ、大根さまがすごく響きますね」と感慨深そうに言っていた。


 そんな2人にタマゴサンドをそっと差し出す。


 はむはむと食べ進めていくスズは、「タマゴの優しさがツライ」と言い、

 おいしそうに食べるリーンベルさんは、「ん~♪」と幸せそうな声を漏らした。


 この姉妹が食べてる姿は一生見ていられる。

 僕もタマゴサンドになりたい……いや、違う。

 そんな変態じゃない、料理を提供する側でありたいと思う。


 すると、2人同時でお椀を突き出してくる。


「「心に響くやつをください」」


「みそ汁です、大根のみそ汁ですからね」


 スープ名を2人に伝えながら、みそ汁のおかわりを差し出す。


 この後も2人は食べ進めて、スズは3人前、リーンベルさんは7人前も食べた。

 リーンベルさんが食べ過ぎるから、途中でタマゴサンドを追加で作ったよ。


 なんで3人しかいないのに、11人前も必要なのかな。

 昨日食べ過ぎたって、反省してた気がするんだけど。


 食べ終わると、リーンベルさんは顔を赤くしていた。


「このタマゴサンドは卑怯です!」


 そうだね、朝から7人前も食べたら怒りたくもなっちゃうよね。

 でも、怒る対象はタマゴサンドじゃなくて、食欲が抑えられない自分だよ?


「なんでこんなにおいしいの!?」


「普通のタマゴサンドですよ」


「普通じゃない、おいしすぎるの! なんなの? なんでこんなにパンとタマゴが私に優しくしてくれるの?」


 何か……ツライことでもありましたか?


「気持ちはわかる。でも食べすぎ」


 君はオブラートに包まず、ストレートに殴りにいくタイプだね。


「だって、止まらないんだもん! あっ、そろそろギルドに行く時間だ、早く片付けよう」


 それから3人で後片付けをして、一緒にギルドへ向かう。


 学生の頃に好きな子と通学するみたいな雰囲気で、すごくいい。

 始めてやったけど。


 ギルドに着くと、すでにマールさんが仕事の準備をしている。

 以前聞いたところ「新人だから早く来てるんだよ」と言っていた。

 新人のツライところですよね、お疲れ様です。


 スズとは初対面だったらしく、お互いに挨拶をする。

 年もマールさんとスズは15歳で同い年だ。


 リーンベルさんの年齢を聞きたかったけど、怒られそうだったので本人には聞かない。

 こっそりとマールさんに小声で尋ねる。


「あの~、リーンベルさんの年齢って知ってますか?」


「気になるの~? おませさんだねー。ベル先輩はボクの4つ上だから19歳だよ。ところで、なんで先輩はあんなに機嫌がいいの?」


「朝ごはんがおいしかったからだと思います」


「そんなわけないじゃん、何したのさ。鼻歌を歌ってるところなんて初めて見たよ?」


 他に思い当たる節がなかったので、コッソリ近づいて聞いてみる。

 すると、「ふっふふ~ん♪ たま~ごさ~ん♪」と歌ってた。


 当たってるじゃん。

 あんなに食べたのに、まだタマゴサンドのことを言ってるよ。

 そんなに気に入ってくれたのかな。


 もしかして……7人前でも我慢した方だったのかな? ま、まさかね。

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