第17話:約束の指切り

「食後にクッキーがいる! クッキーはおいしい! クッキーがないと締まらない!」


「「 ……… 」」


 デザートにクッキーを食べたいのね。

 最後は甘いもので終わりたい気持ちはわかる。

 そんなにクッキーを気に入ってるとは思わなかったけど。


 大きめの皿を置いて、大量にクッキーを出してあげると、スズは勢いよく食べ始めた。

 さっき5人前くらい食べてた気がするけど、大丈夫なのかな。


「高価なものをねだらないの! クッキーが高いことぐらい知ってるでしょ!」


 そう言いながら、誰よりも急いでクッキーを食べていくリーンベルさん。

 説得力はゼロである。


「大事な話。タツヤの戦いはおかしい。オークを遊び倒す人は初めてみた」


 大事な話って、クッキーが欲しいって意味じゃなかったんだ。

 確かにパーティとして戦うためには、スキルのことは伝えないとダメか。

 どう伝えればいいのか迷うけど。


「それ気になってたんだよね。普段はどうやって魔物を倒してるの?」


「えーっと……、戦闘用じゃないスキルを戦闘用に変換して、使っている感じです」


 目が泳いでしまうのも無理はないだろう。

 だって、『醤油ビームです! ハバネロビームも出せます!』って言えないよね。

 言っても「は?」ってなるだろうし。


「私は見た。卵を投げた後、赤い液体を出してオークと遊んでた」


「もしかして、最初から見てたの?」


「うん」


 助けてよ! どう見ても危ない戦いだったでしょ。

 10歳の子供がオーク2体に襲われてたんだよ?

 まぁ、勝ってるんだけどさ。


「しかも装備をしていない」


 あっ……そういえば装備してない!

 普通は防具を買ってから冒険するよね、うっかりしてたよ、てへ。

 魔法もスキルも覚えられないから、剣とか槍とか買う気になれなかったんだ。

 下手に武器を使うより、調味料の方が強いと思うし。


 なんだろう……この空気は。マズイ気がする。

 リーンベルさんの方から黒い波動を感じるんだ。


「……装備を、してない?  前からギルドに普通の格好で来るとは思ってたけど、まさか装備を持ってないのかなー?」


 でた、ニコニコリーンベルさん!

 うわー、怒らないで。怖いんですよ。もうトラウマなんですって。

 32万の強靭なメンタルを破壊するリーンベルさんの堕天使パワーで、世界を破滅に……。


 あ、あれ? 怒ってない?


「ねぇ、タツヤくん。こんなこと本当は言っちゃダメなんだけど……ステータス、見せてもらえないかな?」


 ステータスか。それはマズイ気がする。

 異世界言語のスキルあるし。

 

「ずっと心配してるの。ダメ……かな? お姉ちゃんが力になってあげられるかもしれないから。ね?」


 僕のステータスを見たら、もっと不安になると思うんですけど。

 32万の強靭なメンタルと最大値の運しかないからね。

 一応意味があるのかないのかわからない、種族ハイエルフもあるし。


「お願い! お姉ちゃん本当に心配なの!」


 両手を合わせて頭を下げられる。

 純粋に心配して言ってるんだろう。

 うぅ、こういう女の子の姿には弱くなる。


 それにリーンベルさんは、異世界に来てから1番良くしてくれてる。

 本当にお姉ちゃんみたいな人で、すごく心が温かい。

 ステータスを見て、悪さをするような人じゃないだろう。


 今もそうだけど、この人が怒る時は危険と感じるときだけ。

 僕の変なステータスでも、嫌わないで協力してくれると思う。

 この世界のこともよくわからない。

 話してみるのも……いいかもしれない。


「いくつか約束だけしてもらえませんか? 他の人のステータスがどうかわかりませんが、少し特殊だと思いますから」


「うん、約束するよ。何でも約束する」


「誰にも言わないこと。称号の詳細を確認しないこと。あと、どんなステータスでも見捨てないこと」


 悲しみの魔法使いの詳細はバレたくない。

 この世界でのハイエルフの立ち位置が、どんな存在かもわからない。

 嫌いになったり、見捨てられたリ、悪さしたりするような人じゃないってわかってる。

 でも、言葉で約束してほしい。


「称号も持ってるんだね、簡単に手に入るものじゃないんだけど。でも称号のことは心配しないでいいよ。ステータスの詳細は自分にしか確認できないから。私はその約束をしっかり守るよ」


 リーンベルさんは小指を出してくる。


「私も守る。ステータスを見てパーティを解消したりもしない。またごはんもクッキーも食べたい」


 スズも小指を出してくる。


 子供の僕を安心させるための指切りなんだろう。

 でもこうやって約束してもらえると嬉しい。

 ちゃんと守ってくれそうな気がする。


「一応言っておきますけど、2人だから見せるんですからね? 約束は守ってくださいね」


 2人に見えるようにステータスを表示させる。


----------------------


 名前:タツヤ

 年齢:10歳

 性別:男性

 種族:ハイエルフ

 状態:HP回復速度上昇(1時間)、HP継続回復(1時間)、MP回復速度上昇(1時間)


 Lv:1 (MAX)

 HP:100/100

 MP:0/0


 物理攻撃力:100

 魔法攻撃力:200 (+100 1時間)


 HP:200/200 (+100 1時間)

 MP:0/0

 腕力:50

 体力:100 (+50 1時間)

 知力:180 (+90 1時間)

 精神:320000

 敏捷:70

 運:100(MAX)


【スキル】

 アイテムボックス、異世界言語


【ユニークスキル】

 調味料作成:Lv.5

(料理調味料Lv.5 ・お菓子調味料Lv.5 )


【称号】

 悲しみの魔法使い、初心な心、パティシエ、クッキーの神様


----------------------


 うわっ、料理効果でステータスがいっぱい変化している。

 今までクッキーだけだったけど、料理の種類によって効果も違うんだね。


「「 ……… 」」


 あれ? 2人とも固まってる。

 さっきまでクッキー食べてたのに。

 完全に停止しているような感じだ。


「み、見えてますよね? 何か言ってもらえないと、恥ずかしいんですけど」


 ステータスを見せるって、思ったより恥ずかしいね。

 裸を見られているような気持ちになるよ。

 見られたことないけど。


「ご、ごめんね。想像以上だった。見たことないものがいっぱいで……。頭の中で全然整理ができないの。色々話を聞いてもいい?」


 わかりますよ、その気持ち。

 どうみても意味の分からないステータスだもんね。


 僕は1つずつ自分のことについて話していくことにした。


----------------------


・実は異世界からやってきたこと(若返ったことは言ってない)

・この世界にやってきて、まだ1か月しか経ってないこと

・自分でもなぜこうなったかわからないこと

・調味料で戦っていること

・僕が作った料理とお菓子はステータスが上がること


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 スズにもステータスを確認してもらうと驚いていた。


「あり得ない、本当に上がってる。状態にプラス補正も付いてる。こんなの見たことない」


「確かに色々特殊ね。何を言ってるのかわかるんだけど、現実として受け入れにくいよ。頭の中がゴチャゴチャしてる。スキルに【異世界言語】ってあるくらいだし、本当なんだろうね」


「クッキーがおいしいのも、料理がおいしいのも納得。この世界の食文化を遥かに凌駕していた。私は信じる」


 こんなわけのわからない現実を受け入れてくれるとは。

 リーンベル姉妹のピュアな心が素晴らしい。さすが天使だ。

 

「ごめんね、こんな言いにくいことを無理に聞いちゃって。約束は守るし、協力できることは協力するから何でも言って? 私たちは絶対誰にも言わないよ。ね、スズ?」


「うん。言わない。それに話して置きたいことができた。タツヤがこの世界にやってきたのは、大きな意味があると思う」


「異世界について何か知ってるの?」


 スズはとても真剣な顔で、真っすぐ目を見てこう言った。


「この2年間、私はハイエルフの情報を探し続けた。ハイエルフの命を守るために。それが神獣様との約束だから」

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