第35話 反ワクチンだけど、理由は一応筋は通っている

「なんで? マスクと同じように意味が無いと?」


 私はまたなんかT田K彦氏が言ったのかと思い、問い返した。


「だって罹患者の抗体は数ヶ月で消えるって話だよ? ワクチンだって効果がいつまで持つのか分からない。そんな無駄なことはしない」


 む……一理ある。緊急承認したために未知の部分もある。今読んでいる本も日本は世界より接種が遅れるが、語弊があるが世界の様子を見てからでも遅くないとある。


「ファイザーは効果高いと言うから私は打つけどな」


「俺は打たないからね」


「ん? もしかしてインフルエンザワクチンも打たない理由もそれ?」


「そう。毎年打つなんて無駄なこと」


「あのなあ、私が一昨年かかった時は大変だったのよ。日曜朝に発症したから丸一日ほど八度五分でこらえて、薬飲んでも効きが遅くてトータル丸三日寝込んだのよ。あれで懲りて重症化しないようにワクチン打ってるのに。あなたが打たなかったら予防の意味無いじゃない」


「大袈裟なんだよ」


「大袈裟じゃないわよ。インフル以前は風邪ひいてもカツ丼食べられる人間だったけど、高熱三日間で胃弱がさらに進んで食べられなくなったのよ。コロナなんて更に高い熱が一週間するのでしょ。そしたら回復してもゼリー飲料しかのめなくなるわいっ!」


 私が力説しても夫はキョトンとしている。ダメだ、この人はメタボ、脂肪肝であれ、高熱出しても一晩で治る人だ。他人のパターンというか立場が想像できない。こんな所にもASDの弊害が出てくるとは。


 とはいえ、長期的データが無いのは全世界共通。医療者でも製薬会社でもわからないことは私にもわかるわけがない。日本に来るまでは地道に予防するしかない。なのに、夫はデマを信じ、陰謀論を信じ、過剰な正常性バイアスがかかって自分はかからないと言い張ってマスクはしない。うがい手洗いはするものの(しかし、洗面所に直行せず部屋にコートや郵便物を置くから『早く手洗いして』とヒヤヒヤする)、ワクチンも打たない予定。

 これって経緯は違えど「反マスク、反ワクチン」の人と結果が同じだ。


「コロナ避難家出」という言葉が頭をよぎり、マンスリーマンションを検索を始めた。

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