第12話 とりあえず本を読む、しかし対策にはならなかった

 借りたのは「新・人は皆、「自分だけは死なない」と思っている」(山村武彦著・宝島社)でした。

 東日本大震災の話を元に書かれ、改定されたので「新」が付いている。

 以下、引用と感想を混じえて書いていく。


 この本でまず「正常性バイアス」が起きた例(韓国地下鉄火災事件、震災での大川小学校の対応など)を読み、「今は非常事態ではない」と無意識に考え、避難が遅れ犠牲者が出たことが書かれていた。


 確かに当時の新聞で生き残った人のインタビューで「チリ津波より大きくならないだろうと油断していた」「防潮堤があるから避難しなかった」とあった記憶がある。当時のYouTubeにも陸前高田市の市役所庁舎前で大津波警報が響く中、人々がゆったりと歩いて避難している人が多くて驚いたものだ。ちなみに撮影者はこの動画撮影直後に庁舎内に駆け込んで助かったそうだが、震災直後の陸前高田市の映像からしてあの庁舎周辺も犠牲者が出たと思われる。


 でも、心の油断や甘えというものでは無く、防衛本能の一種で心のストレス対策に災害や非常事態という認識を薄めてメンタルを保つ深層心理。なんだかややこしい。


 なるほど、恐らく夫はこの状態で周りにコロナウイルス感染者もいない(うちの役所は関東エリアでは第二波の時でもまだ感染者はいなかったと記憶)から、「自分はかからない」安全性バイアスが過剰になっている状態だ。

 陰謀論はさておき、まずはそのバイアスをどうやって打ち破るか。皆が皆、私みたいな用心深いチキンじゃない。


 正常性バイアスを突破した例では「釜石の奇跡」の中学生達の話が載っていた。

 この中学生達は普段から避難訓練はもちろん、独特のルールで避難行動を心がけていた。

 ・常識を打ち破れ(今まで津波が来なかったからと言ってそれは「常識」ではない)

 ・ハザードマップを信用するな。想定外を想定しろ

 ・避難の先導者であれ(迷っている人もそれで避難を始める)


 震災の心構えとして役に立つ良書だが、陰謀論者には応用が効かないと思った。

 なぜなら彼らは信じたいことしか信じない。


 上の三つも

 ・常識を打ち破れ→マスク着用の常識を打ち破れ、だから付けない

 ・ハザードマップを信用するな→厚労省など政府の言う事を信じるな

 ・避難の先導者であれ→正しい情報(陰謀)を世に知らしめないと! だからSNSで拡散させる!


に変換されるのは明白であった。

 良い本であったが、陰謀論対策にはなり得なかった私はやや失望して本を閉じた。


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