春までのひととき

窓の桟に積もる雪。

南天の実。暖炉の炎が爆ぜる音。

ガーデンアーチ。安楽椅子。マグカップ。

呼び鈴。

並んだ街路灯の一つが不規則に明滅する。

閑散としていた日々にも、

また温もりが戻り始めた。

冬のらい。寝息。

静かなキッチン。氷柱。しずり雪。

思い出。

何処かに仕舞った本の一ページ。

生き写しかと惑う横顔。

白息。マフラー。繋いだ手。

風花。結晶。

一本道。傘。降霜。

寒月。辿った足跡。雪明かり。

栞。

落椿。後悔。浮雲。

すぐに消えた揮発性の匂い。

晩翠。しゃがんだ君の手のひらに。

今にも溶けて、無くなりそうな雪うさぎ。

待っていた、春までの、ひと時の眠りを。

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