ものまね芸人一馬の事件簿

鷹山トシキ

第1話

 安倍一馬あべかずまはものまね芸人だ。お笑い界は第7世代まである。ドリフターズとコント55号が第1世代、タモリ・ビートたけし・明石家さんま・笑福亭鶴瓶が第2世代、とんねるず・ダウンタウン・ウッチャンナンチャンが第3世代、雨上がり決死隊やキャイ~ン、ナインティナインが第4世代、中川家・タカアンドトシ・サンドウィッチマンが第5世代、ナイツ・オードリー・千鳥が第6世代、霜降り明星やフワちゃんが第7世代だ。


 今日はステージでウド鈴木が「天野く〜ん」と言いながら、相方の天野ひろゆきのオナラを嗅ぐ仕草を相方の坂本龍馬さかもとたつまとやった。安倍がウド、坂本が天野の役だ。


 1月6日

 赤城乳業の人気氷菓「ガリガリ君」の偽造当たり棒25本を同社に郵送し、キャンペーン景品をだまし取ろうとしたとして、埼玉県警深谷署は詐欺未遂の疑いで秋田県鹿角市に住む43歳の会社員の男を逮捕。その後、男はさいたま地方検察庁熊谷支部に送致されたが、2月16日に不起訴となった。


 京都市南区上鳥羽勧進橋町を流れる鴨川に14時30分頃赤色の液体が流入。原因は木の塊などで下水管がふさがれていたことにより、雨水放流渠から染色排水が流出したため。

  

 安倍は新選組みたく、誰かが誰かを斬り殺したのかと思った。


 安倍は、群馬の四万という町に住む奈良半蔵から「さる人物について調査していただきたい」との依頼を受ける。折りしも四万には関西のホテル王の養女・松崎靖子が母の蘭子と滞在中で、令和のシンデレラと大きなニュースになっており、安倍は彼女に近づきになれるかも知れないと思いながら出立の準備を進める。ところが出発当日の朝、「四万に来てはならぬ。生命が惜しいと思ったら四万の町に近寄るな」という脅迫状が届く。


 大いに興味と闘志をかき立てられた安倍は、四万に向かう列車の車中、頬にうすい傷痕のある男に話しかけられる。安倍は、同じ車中のサラリーマンとの会話から、奈良半蔵の次男の若次郎が13年前に川で殺されたこと、男が死体の発見者であったこと、一色家の娘の君枝きみえが若次郎を殺して奥四万湖に飛び込んだこと、奈良家と一色家はともに四万きっての名家だが、先祖代々互いに敵同士としていがみあっていることなどの事情を知る。


 四万に着いた安倍は、一色家に向かう途中、異国風の教会の前に集まっている人々から、ちょうど蘭子が教会にお参りしており蘭子と靖子が一色家に滞在していることを聞く。さらに、教会から出てきた蘭子を見た頬に傷痕のある男が「きっ、君枝!」と叫ぶのを聞く。


 そうして奈良家に着いた安倍は、主の半蔵から、蘭子の身許調査を依頼される。13年前に若次郎を殺した君枝が、その後自殺したように見せかけて生き延びていて、それが今、蘭子として帰ってきているのに違いないと、半蔵は主張する。頬に傷痕のある男(奈良家の遠い親戚の嶋田智津夫)が、蘭子を見て「君枝!」と呼んだことと思い合わせた安倍は、激しく胸が騒ぐのを覚える。


 一方、一色家では、靖子がパーティの準備に余念のないところに、「母をつれてこの土地を去れ。ここにいると不幸なことが起きる」との脅迫状じみた手紙を受け取る。そして、君枝の姪の虹男から、13年前の事件の話を聞く。


 君枝は敵同士の相手の奈良家の長男、飛竜と恋仲になり、甌穴群の奥で落ち合って駆落ちしようとしていたところ、それが半蔵に知れる。半蔵は飛竜と現在その妻となっている満子みつこを結婚させようとしていたこともあって激怒、飛竜を閉じ込めるとともに次男の若次郎に君枝を連れて来させようとしたが、若次郎が殺されてしまったのだという。

 しかも、その手には君枝のケータイストラップが握られていたのだという。容疑をかけられた君枝が語るには、若次郎につかまり必死に逃げようと抵抗しているうちに、ストラップがちぎれたもので、殺してなどいないということだった。だが、警察が頭から君枝が犯人に違いないと引っ張っていこうとしたため、絶望のあまり甌穴群に飛び込んで自殺したのだと。しかし、君枝の死骸は見つからなかった。


 そして、靖子主催のパーティが開かれたが、その席に蘭子は病気を理由に欠席、半蔵は蘭子を挨拶に出させるようしつこく主張し、靖子が折れて家庭教師の飯島梨子いいじまりこに蘭子を呼びに行かせたが、いつまでたっても蘭子は姿を現わさない。不審に思い部屋に行ってみると2人とも部屋におらず、行方が分からなかった。そこへ虹男がベランダから駆け込んできて、蘭子が甌穴群の方に向かっていくのを見たと言い、戻ってきた梨子も蘭子を捜しに行って甌穴群の入口で蘭子のスカルのピアスを拾ったと話したことから、一同で蘭子の後を追って甌穴群へ捜しに出かけることになった。


 甌穴群の入口には蘭子のものと思われる靴跡と、他にもう一つのブーツの跡を見つける。虹男はそれが飛竜のものかも知れないと言う。実は飛竜は、特別ゲストの女優、蔵前橋菜々子とパーティを抜け出して逢引していたところ、蘭子らしき黒衣婦人を見て後を追っていったのであり、虹男はそれを菜々子から聞いて知っていたのだ。半造は、蘭子が甌穴群に向かったのに違いないと主張し、足跡もそちらへ向かっていることから一同が甌穴群に進んでいくと、ハンチング帽をかぶったコート姿の男の影を認め、警察署長の井伊右京いいうきょうや靖子と護衛に連れてきたボディーガードの工藤純生くどうすみおら他の者たちがその後を追っていき、あとには安倍と半蔵、虹男の3人が残された。


 半蔵は男の正体を知っているらしく驚いた様子であったが、3人がそのまま甌穴群に向かっていくと、断崖の向こうにカンテラを持つ靖子の顔に似た黒衣の女を見つけ、半蔵は「君枝だ!」と叫んで虹男の手から懐中電灯を奪って走り出して行ってしまった。安倍と虹男が蝋燭をかざしながら進むと、君枝と井伊が合流し、一同がさらに進んでいくと、洞窟の奥から半蔵の怒りに満ちた声と、「ひいッ!」という女の悲鳴が、さらに間を置いて男の悲鳴が聞こえてきた後、洞内は静まり返ってしまった。


 君枝のかざす懐中電灯で底なしの甌穴群まで進むと、甌穴群の向こうに鍾乳石で刺し殺された半蔵が見つかった。その手には、蘭子がかぶっていた大きなベールがつかまれていた……。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る