105話・ロリアンにキスされた?!
翌朝。ラメルは宮殿から迎えに来た馬車に意気揚々と乗り込んだ。ロリアンが弟が非常に気になると言ったので、ラメル殿下が出発してからバンタム家の馬車で密かに向かうことにした。わたし達も王妃さまに頼まれた御用があったので都合が良かった。
王都にはアーサーの屋敷も、我が家もある。どちらの家にロリアンが滞在してもいいように連絡はしておいた。馬車は二台。妹達も行くと言って聞かないので、ロリアンとセージとアーサーと四人で膝を突き合わせて同乗し、もう一台に妹達を乗せた。
ガラゴロと馬車は音を立てて進む。
「ラメル王子はお見合いと言ってたけど、その相手ってまさかパメラ王女とか?」
「いや、それはないな。おそらくアリア王女じゃないか? お騒がせ王女は謹慎を申し付けられて、その後、修道院に送られると聞いたぞ」
アリア王女と言えば、パメラ王女とは違う側室の産んだ姫で、やや活発なうちのシュネと同じくらいの元気の良い赤犬族の獣人だ。気さくな人柄で貴族の者たちや、使用人にも人気がある。
わたしはアリア王女よりも、パメラ王女のことが気がかりだった。
「修道院────」
「さすがに側室どのと同じ監獄に送られるのは見送られたようだが、陛下には完全に見限られたようだ」
王女のことを思い複雑な思いでいると、隣に腰を降ろしているアーサーに頭をなでられた。向かいの席にはロリアンとセージが隣あわせで座っていた。
「お人よしのおまえの事だから可哀相なんて同情していたんだろうけど、俺は当然の報いだと思っている」
「そうだ。あれはないな」
ロリアンも当事者ではないのに巻き込まれているので、人となりは分かる。彼女も「うんうん」頷いていた。セージは黙って聞いていた。
「しかし、王妃さま何をお考えなんだろう? すぐに返事がきたぞ」
アーサーはアザリアさまと連絡用の鳩で緊急時は連絡を取っているが、間をそんなに空けずに鳩が帰ってきたのに驚いていた。
「何かしらね? しかもわたしを連れて来てだなんて」
「伯母上はおまえに何かさせたいようだな」
アーサーも訝る。
「カミーレに会ったら気を抜くなよ」
「分かっているわ」
「どうだか。おまえは絆されやすいからな」
「そんなにわたしは甘くないわよ」
それを聞いてセージがアーサーにすかさず言った。
「同情する」
「分かってくれるか? 友よ」
意味不明なことを言って頷き合う二人。ロリアンと目が合うと苦笑された。
「だからこいつから片時も目を離していられないんだ」
「気持ちは良く分かる。僕も時々、ハラハラさせられているしね。僕の場合は一緒にいられないから尚更だ」
「それはどういう意味だ? セージ」
「膨れないでよ。ロリアンはそれも可愛いけど────」
「可愛いのはセージの方だろう?」
セージが珍しくも言いよどむ。その彼の頬にロリアンがキスをした。それが自然で言葉もなく見つめる形となったわたしの横にアーサーの顔があった。
「アーサー?」
アーサーがほらほらと自分の頬を指差してくるけど、皆の前でする勇気はわたしにはなかった。ぐいぐい顔を寄せられたけど、両手で押し返す。
「ひどいな。リズ」
「やだ。恥ずかし────」
「リズも可愛いな」
目の前にロリアンの顔? と、思ったら額にチュッとされていた。ロリアンにキスされた?! 真っ赤になっていると、アーサーがロリアンをにらみ付けていた。
「ロリアン」
「やだな。アーサー。これは親愛の挨拶だよ。ノーカウントだ」
「人垂らしめ」
苦笑するロリアンに食い下がるアーサー。そして頬の当たりに鋭い視線を感じた気がしてセージをみると、物凄い形相で睨まれていた。なぜ? セージに睨まれるの? わたしって被害者よね?
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