🐺獣人辺境伯の心配は尽きない~白耳うさぎは黒狼を翻弄する~
朝比奈 呈
ヒロイン目線🐇
第1話・私の推し
「きゃあ。なんて可愛いの──」
ある昼下がり。わたしはカミーレのドレスの着せ替えに夢中になっていた。
カミーレはわたしより二つ年下の十四歳。長身で細身のカミーレは、金糸のようなキラキラ輝く癖のない髪に、地中の宝物を閉じ込めたような琥珀色の瞳の持ち主。その髪を両サイドを編みこんでふんわりさせ、頭からひょっこり覗く金色の丸みを帯びた三角の二つのお耳の後ろで大きなリボンを結ぶ。
編みこみヘアーのカミーレに虹色のドレスはよく似合っていた。ご機嫌そうにドレスの後ろから、金と黒と白の毛の混じった尾っぽが大きく揺れていた。
────尊すぎる
美麗な容姿のカミーレを着飾らせて、わたしは鼻が高かった。
わたしは白耳兎族のベクトル伯爵令嬢アンネリース。十六歳。顔立ちは実に平凡だ。カミーレや家族たちが可愛いと言ってくれる長くて白い耳のほかは、たいしたことがないといえる。特徴ある夕焼け色の髪に緑色の瞳をしているとはいえ、カミーレの美貌に比べれば完全に見劣りする。
そのようなわたしが、カミーレという存在に出会えた事は実にツイていたと思っている。
縁とは不思議なものだ。自分の母がカミーレの母親の侍女をしていなければ、カミーレに出会うこともなかった。彼のように尊い存在とこうして一緒にいることすら、たかが伯爵家の娘の身にしてみれば過ぎたことだというのに。
でもそのおかげで幼い頃からカミーレとは仲良くしていた。カミーレに、薄化粧を施し紅をさして、自分の仕上げた美しい完成品に見惚れていたら、なんだか廊下が騒がしい。何事かと思えば、その声は段々大きくなってこちらへ向かって来ているように思われた。
「おい、リズ。いるんだろう? オレだ。アーサーだ」
「お待ち下さい。アーサーさま」
「お嬢さまに聞いてまいりますので、どうかそれまで応接間でお待ちを……」
このわたしのこの上も無く至福の時間が、この無粋な若者の登場で破られそうになっていた。彼の名はアーサー・バンタム。わたしと幼馴染で同い年の十六歳。端整な顔立ちの黒髪に黒い瞳の持ち主でとても凛々しい。
国内での若いご令嬢を始め、異性からの人気は高く、恐らくカミーレと人気を二分すると思われる。その彼はわたしの許婚にして困ったちゃんでもある。
黒狼族で辺境伯の地位にあり、王都に滞在すると決まってご挨拶伺いに我が家に顔を出すのは良いのだけど、カミーレを毛嫌いしている。ここ最近はカミーレと会う時は、彼に内緒にしていた。
廊下で侍女達が来客中だからと、必死にアーサーを食い止めようとしているのに、彼には全く通じてないようだ。
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