16話 ケンカしている場合じゃねぇ!!



川の底は思ったより深かったらしく体が打ち付けられることはなかったが服が水を吸い込み一気に体が重くなった。


(や、やばい! このままじゃ溺れるっ)


必死に手足をばたつかせて上を目指したが思うように体が浮かない。そろそろ息もヤバくなってきている。

ふと腰に何かが巻き付いた感じがして隣を見ると王子が私の腰に腕を回して人差し指を口に当ててる。大人しくしていろということか。

私が動くのをやめたらぐいぐいと水面へと上がって行った。


「ゲホッ、ゲホッ」


川岸までなんとか辿り着くことができて吸い込んでしまった水を吐き出した。


「はぁはぁ……、死ぬかと思ったぜ…」


「まっ…たくです……」


マークとウィリアムも無事なようだ。


「クリストファー殿下、助けて下さりありがとうございます」


隣にいる王子にお礼を言う、王子がいなかったら私は溺れて死んでるところだった。


「いえ、お礼されるほどのことは…っつ!」


話している途中で王子が顔を顰め足を見下ろした。私も王子の視線に合わせたら王子のひざ下部分のズボンが赤く染まっていることに気づいた。


「っ!! 怪我をしているのですか? 足を見せてください!」


「別に大した怪我ではないですよ」


そんなことを言う王子を無視してズボン裾をたくし上げると何かに引っかかられたような深い傷があった。


「おいおい、ひどい怪我じゃねえか! 早く医者にみてもらわねえと」


マークが後ろから覗いて青い顔をしている。


「そうですね。移動するのは難しいので近衛騎士達が見つけてくれるといいのですが……」


「そんな悠長なこと言ってられるか! ここに俺達がいるなんてこと知らないだろうし、俺が今から走ってこの山降りて救援呼んだ方がいい!」


ウィリアムの言葉にマークが言い返す。


「しかし、あなたこの山の地理を知っているのですか? もしあなたが麓まで行けなかったらどうするんですか? もしその間にモンスターに襲われたらどうするんですか? 考えなしに発言するのは止めていただきたい」


「なにおう!? お前の方こそこのままクリス殿下の怪我が悪化したらどう責任を取るんだよ!?」


「だいたい、あなたが橋を渡ろうと言わなければこんなことにはならなかったのでは?」


「はあ!? あのままだったらオーク共が来ていたかもしれないんだぞ!!」


「そうじゃなかったかもしれないじゃないですか!!」


「じゃあお前は、あの時なんで止めらなかったんだよ!?」


「それはあなたが勝手に渡り出したんじゃないですか!!」


2人がいきなり言い合いを始めだした。こんな状況で不安になるのもわかるがいい加減五月蠅いのでとりあえず黙らせるか。

私は思いっきり、スーっと息を吸い込んだ。




「うるせええええええええええええ!!!!」


「「!?」」


私の突然の叫びに2人はビクッとなって私の方へと向いた。


「おまえらはさっきからギャンギャン言いやがってそんなことしている場合じゃねえんだよ!!」


「「レ、レイラ嬢!?」」


マークとウィリアムは驚愕の表情で私を見ているがそんなの知った事ではない。


「とりあえず王子の怪我の手当てが先だ。お前ら言い合いするくらい元気なら乾いた木の枝集めてこい!」


「「は?」」


今度は怪訝そうな顔をする2人。


「いいから早くいってこい! 蹴り飛ばされたいのかっ!!」


「「わっわっかりましたっ!!」」


慌てて枝を集めに走って行った。


「……くっくっく」


そんな私達のやり取りを見ていた王子が笑い出した。


「…何がおかしいんだよ」


「いや、本当にあなたの言動にはいつも驚かされてばかりいますよ」


「私を珍獣か何かに思っていないか?」


「…それに近いですね」


「ふん! まあいいや。とりあえず止血しないとな包帯なんてもってないし…。あ!いいのがあった」


スカートの裾を掴んで歯で切り込みを入れて包帯のようにビリビリと引き裂いて行った。


「なっ!? いきなり何をしているんですか!!」


私の行動に王子は驚いたような声を出した。


「何って包帯を作ったんだよ。ちょっと待ってな」


川の水で軽く洗ってからきつく絞る。王子の元に戻って怪我している部分を軽く拭いた。それからもう一つの布で患部を覆うように巻き付ける。

ホントは回復系の魔法が使えたらよかったんだが、まだグゥエルのじっちゃんから習っていなかった。


「ありがとうございます」


「たいしたことはしてないぞ。応急処置みたいなもんだからな」


「いえ、これもですが。……さっき、あの二人のケンカを止めてくれたじゃないですか」


「なんだそんなこと。だってあいつらうるさかったし、王子もあいつらがお前の事を思ってケンカしているのがわかるから止めきれなかったんだろ?」


「‥‥‥‥」


王子は何故か寂しそうに微笑んだ。



王子があの時何であんな顔をしたのかを私が知ることになるのはだいぶ後になる。




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