4話 そんなの簡単さ、レベルを上げて物理で殴ればいい。


「それはヤダ。俺は男と結婚する気はない!」


「誰も結婚しようとは言ってませんよ。私が言っているのは『婚約関係の維持』です」


「……意味が分かんねー」


どういう事だってばよ。


「はあー、あなたでも説明すると、しばらくの間、婚約者のふりをするという事です」


何だかすごく馬鹿にされている気がするのは気のせいか?


「ふり?」


「そうです。先ほども言ったようにあなたのその、何でしたっけ?『女冒険者』というのは現実問題で今は無理でしょう? ギルド登録ができる6年間は私との婚約を継続するということです」


「なんでそんなに婚約破棄したくないんだよ。お前みたいな見てくれならどんな女でもイチコロだろ?」


レイラにこだわらなくても、一国の王子の嫁になりたい女の子なんて沢山いるだろうに。


「また、そんな下品な言い方を…。私はこれから王になるための教育や公務が沢山控えているのです。それをまた一から妃候補の選定で時間を取られるのは嫌なんですよ。めんどくさい」


最後に本音が聞こえた。


「なるほどなあ~。でも、女の子集めてさ、好みのタイプの子をすぐに選べばいいじゃん! 王子っていいよなあ、選り取り見取りなんだからよお」


「はあ~、あなたと話していると私も知能指数が低くなる気がしてきます。そんなに簡単な事ではないのですよ。先ほども言いましたが、貴族間におけるパワーバランスやその令嬢の資質を見極めないといけないのです。魔力もそれなりにないといけないですし…」


王子様は話しながら疲れた表情を浮かべた。なんか想像していたより王族って大変なんだなあ。


「お前の言い分はわかった。でもよお~、婚約者を続けるってなんかメンドクサソウなんだよなあー、あ、ほら舞踏会?ってやつにもでないといけないんだろ?」


「そうですね、王家主催の舞踏会には婚約者として出てもらうこともあるかもしれません」


「う~ん…」


このままこいつと婚約関係を続けるのに俺にメリットはない気がする。ここはやっぱり婚約破棄するしか……。


「ところで、女冒険者になりたいようですがどうやって技術を学ぶおつもりなのですか?」


王子様がいきなり俺に聞いてきた。


「言っただろ、俺にはチート級の力が備わっているって。だからそんなの簡単さ、レベルを上げて物理で殴ればいい!!」


「……本物のバカを初めて見ました」


「俺をバカにするな!!」


王子様は心底呆れたように俺を見ている。


「魔物狩りはそんなに簡単なものではないのですよ。今のあなたならスライムにだって勝てないでしょう」


「ぐぬぬぬ」


「ここでまた、一つ提案があります」


「なんだよ」


「私と共に王宮に来て妃教育を受けてもらいます」


「はぁ!? そんなの却下だ!!」


「まあまあ、最後まで話を聞いてください。私の臣下にはS級保持者の冒険者が数人おります。もし王宮に行けばその者たちに狩りの仕方を教えさせましょう。その者たちがいれば15歳になってから魔物狩りに行くこともできますよ」


「マジか!?」


「この国の事もあまり知らないようですし、地理やこの国における価値観や歴史などもタダで学べます」


「タダで!?」


「そうですよ。その間だけ私の公務のお手伝いをしていただけたらすべてで提供いたしましょう」


「うぬぬ。話がうますぎ、タダほど怖いものはないと言うし……」


何か嫌な予感もするし、ここはひとつ断った方がいいんじゃないか?冒険者はウチの財力で何とかなりそうな気もするし……。


「…ああ、そうそう。王宮の侍女は美女揃いと有名なんですよ」


「その話、乗った!!!」


侍女ってお世話する人だよな、そんな美人のお姉さまたちにお世話されるって天国かよ!!


「…単純」


王子がニコニコしながらボソッとなんか言ったような気がしたけど、美人の侍女さんたちに思いをはせている俺には聞こえなかった。


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