第13話 両国の戦力は拮抗しています。
一か月後に「第二回世界を破滅から救う会議」を開催することで合意して、各国からの出席者は帰国した。
エバはパピルスビルに居室を与えられ、住み始めた。九十八階にある広くて居心地のいい部屋だった。テレビがあり、エバはその電化製品を気に入った。毎日ニュースを欠かさず見た。
国際ニュースによると、ガダ合藩国とダン城壁連邦の戦争は激化していた。ガダ国はパンゲア大陸東北部にあり、藩と呼ばれる半独立国家の連合国で、将軍が盟主として君臨していた。ダン連邦は大陸東南部に位置する五つの独立性の高い州からなる国で、元首は大統領だ。両国の国境線は東西に長く延びている。
ダン城壁連合はその名のとおり国境に壁を築いている。ガダ合藩国は、壁は国境線と一致しておらず、一部越境していると主張している。壁により越境されている自国の領土を取り戻すという名目で宣戦布告し、ガダ軍は壁の一部を破壊し、その内部に侵入した。
ダン連邦からすれば言いがかりであり、一方的な侵略である。ダン軍は反撃した。
これがガダ・ダン戦争の発端であり、開戦から二週間後に「第一回世界を破滅から救う会議」が開催されたのである。
ナオキ・サエグサ大老とシーラ・ガンジン国防長官は帰国後、国内で核兵器不使用条約締結に向けて尽力した。しかし、ノブキ・ナガツカ将軍もハンナ・シンゴン大統領も耳を貸そうとはしなかった。
ナガツカ将軍は国境線に戦車部隊三個師団を送り、さらに二か所で壁を壊して、戦線を拡大した。戦車部隊は三方からダン連邦の首都レノンへ向かって進軍した。
シンゴン大統領は防戦すると共に、航空隊をガダ国に飛ばし、空爆した。ガダ空軍は応戦し、激しい制空権争いが繰り広げられた。
ガダ・ダン戦争は拡大の一途を辿り、局地戦から全面戦争へと様相を変えた。そのようすをエバはテレビで見て、危機感を募らせた。
「この戦争はどうなるのでしょう?」と彼女はビン・ハーン主席に訊いた。
「両国の戦力は拮抗しています。長引きそうですね」
「核兵器不使用条約は締結できるでしょうか?」
「あの二か国は無理でしょう。二か国不参加となれば、残りの七か国もどう出るかわかりません」
「七か国核兵器不使用条約では締結できませんか」
「ガダとダンが核兵器を使う権利を持ったまま、我がパピルス人民共和国では使えないというわけにはいきませんね。他の国の首脳もそう考えるでしょう」
エバは困ったことになったと思ったが、希望を捨ててはいなかった。「第二回世界を破滅から救う会議」でガダとダンの停戦と核兵器不使用条約を話し合おうと考えた。だが、ガダとダンは第二回会議の欠席を通知してきた。
会議は七か国の参加者が集まって開催された。エバは熱弁をふるい、七か国だけでも核兵器不使用を約束し合うべきだと訴えたが、ハーン主席の予測どおり、どの国も核兵器使用の権利を放棄しようとはしなかった。条約の締結は見送られた。
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