第8話 宗教と言っても、あなたにはおわかりにならないのでしょうね。
エビルの死後、一人息子のディアボロがデモン王国第四代の王となった。
「大陸はすべてデモン王国の版図となりました。首都エデンを中心として道路網は整備され、数多くの都市を建設し、農地を広げ、人口は爆発的に増えています。蛇人類の総人口は一億を超えました」とディアボロは言った。
「そう。すごいね」とエバは答えたが、タイリクもドウロモウもイチオクも何のことかわからなかった。
「ところでエバ、あなたは服を着ないのですか?」
「フクかぁ。デモンも言っていたなぁ。あなたたちはどうしてフクを着るの?」
「暖かいし、おしゃれもできるし、何より着ないと恥ずかしいからですよ」
ディアボロの皮膚を覆う服は、デモンが着ていたものとはずいぶんちがっていた。木の皮と葉ではない。
「デモンのフクとあなたのフクはずいぶんとちがう」
「今は主に羊毛を使って服を作っています。染色もしていますから、曾祖父の時代の物と比べて防寒性も装飾性もずいぶんと進歩しています」
「ふーん。とにかくなんかすごいね」
外の世界のことは理解できないことだらけだ。
「人間と蛇人は胸から上は同じですからね。その、あなたの胸は目の毒です」
「他の蛇人もそんなことを言うのよね。眼福とか言う蛇もいるし。エデンの園の外はわけがわからないわ」
「デモン王国は文化的な国家ですからね。女性が裸でいることなどありえないのですよ。無論、男もですが」
「どんどん複雑になっていくのね、外の世界は。驚きよ」
「神話の世界が保存されているエデンの園こそ驚異の世界です。知恵の樹と生命の樹はここからも見える。あの知恵の樹の実を食べて、私たちの祖先は追放されたが、高度な知性を得た。あなたは生命の樹の実を食べて、若く美しいまま歳を取らなくなった。デモン王国では科学も進歩していますが、神の御業は解明できない」
エバには科学の意味もわからなかった。
「エデンの園は大陸のほぼ中心にあります。大陸の地図を完成させ、我々はそれを知った。そしてこの周辺の地域を首都とした。神はエデンの園を中心に世界を創造された。私たちはエデン教を国教とし、信仰しています。あなたも信仰の対象です、不老不死の人間、エバ。私たちを見守る存在よ」
「シンコウ?」
「宗教と言っても、あなたにはおわかりにならないのでしょうね」
「わからないわ」
「あなたに教師をつけましょうか?」
「いらないわ。むずかしいことはわからないままでいい」
「そうですか」
ディアボロ・デモンは去った。彼が歩くと、多くの従者や兵士がその後を追った。
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