【創作企画】刀神・参加作品 霞に花の色匂へよ

@GAU_8

第1話 人が為、黒へ誘い給え夢見草

静々と風に足音を乗せ歩く。緑茂り吹き抜ける風が枝葉揺らす。

木漏れ日を肌に感じ、目には隠した黒への視線を…


「良い天気ね。こんなにゆっくりできるとは思ってなかったらビックリ。

こうして歩いているとあなたとデートでもしてるみたいね?…あら、ねぇ聞いてるの?」


市女笠が揺れて、閉じられていた赤い瞳が開かれる。


「うん、聞いていたとも。少しばかり陽に誘われていたことは否めぬが。

暫し…思い返していた。時も場も違えど、こうして連れ立って山を歩いた者があったものでな。

あぁすまない、やはりそなたの話を聞き逃したやも知れぬな。」


こう話すのは巳ノ水との名を持つ刀神。申し訳なさそうに笠を被りなおす。

それを見やるは八乙女香。天照に属する刀遣いが一人。

鷹緒山を登る乙女ひとりひとりとは無論のこと遊びに来た訳ではない。ここには今や悪意が住み着き人を誑かす。


「もう、もっとしっかりして欲しいものね。それに私と一緒の時に昔の話だなんて気にしちゃうわよ。」


「いやすまない。そうであったな。そうであった。

今はそなたに連れ歩きその道支えようと。…あいや御免。」


さっと巳ノ水が先に出て香を庇うよう押し戻す。

はらりはらりと散ってきた桜の花を扇ぎ落とし、目は険しく。


「やはりこの山、よくない。風にはしゅ。木漏れ日には悪しきまなこを。

見えぬ花にはこうして…あらぬ色が宿る。

人は夢見花と桜に見事な名を与えたが、これの見せる夢は悪夢だろうよ。」


「なに?どうしたのよ。いきなりだったから驚いちゃった。…これがその桜?

変ね。この辺りには桜の木なんて無いのにどこから飛んできたのかしら。」


足元に散る花弁は油に似た極彩を潜めた薄桃。一枚ではなく幾枚も。

二人を山頂へと導くように。または遮るように不気味に散り舞っている。


「…これが今回の事件に関わり無いわけないわね。どうするのかしら。

あなたを担いでいくのは私なんだから。行き先くらいはあなたが決めて頂戴。」


「そなたには頭が上がらなくなりそうだ。その力、暫し貸して貰いたい。

この先はそなたら人の子には怖れを抱かせるものであろうに、私の我侭に付き合わせてしまうこと。その身を無事に送り返すことを巳ノ水の名にかけて約束し、それを返礼としようか。」


「あら、心配されるほど私弱くないのよ?か弱いとして私を見たいのなら、そうね。全部終わったら山登りデート、付き合ってくれればいいわよ!」


「なんとまぁ、頼もしいことよ。これは存分に頼らせて貰わねばいかぬかも知れぬなぁ。

ふふ、相分かった。私に務まるならば喜んで共をしよう。」


前を歩き始める姿を追って、二人桜に飲まれて行く。

徒名草。人は儚くもろい様にこう桜を名づけもしたという。

人は、同じくもろいもの。儚き狭間に花をつけるからこそ美しい。

されどここの咲く花力強く。姿溶かさんと迫る影に反し、眩く輝ける。

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