第13話 認識

「じゃぁ、少し一緒にいてもらえると助かる」


 瑞貴は秋月の厚意に甘えることにして、大黒様の前にしゃがんだ。


「大黒様。この人は秋月穂香さんといって俺の高校の同級生なんです。俺は買い物だけ済ませてきますから秋月さんとここで待っててもらえますか?」


 大黒様の目を見ながら瑞貴は話しかける。吠えたりすることもなく黙っているので了解は得られたのだろう。


「それじゃ、少しだけお願い。すぐに戻るから」


 瑞貴がリードを渡そうとしたときに、秋月は必死に笑いを堪えているようだった。


「……この子の名前、大黒様って言うんだ」

「そうだけど、変かな?」

「ううん、ゴメンなさい。……違うの。私の紹介までしてくれてたから」

「あっ」


 瑞貴は自然に大黒様へ話しかけているが傍から見ていると違和感を覚える行動だったかもしれない。敬語で事細かに説明することは瑞貴にとって当たり前でも事実を知らない人間からは不思議な行動になっているのだろう。

 ここでは『大黒様は実は神様なんです』と言い訳することも出来ずに誤魔化しながら秋月にリードを預けるしかなかった。


――こうやって話をしてみると普通だよな?


 秋月に対してそんなことを考えながらコンビニに入っていく。

 店内からガラス越しに秋月と大黒様を見てみると瑞貴と同じように秋月はしゃがんで大黒様と目線を近くして話をしている。


――何を話してるんだろうな?


 綺麗であるのと同時に年齢なりの可愛さもある秋月を見て入学初日の瑞貴は正直驚いた。仲良くなりたい願望を持つこともなく、ただ圧倒されていた記憶しかない。


 瑞貴も女の子を好きになった経験はあるが人間的に『つまらない』と判断されることが多く、告白に至ることすらなく瑞貴の恋は終わる。

 大袈裟に感情を表すことも無ければバカ騒ぎすることもなかった。良く言えば『落ち着いている』悪く言えば『つまらない』タイプであることは瑞貴自身も認めていた。根暗やコミュ障ではないがクラスの中で目立たないので存在感が薄いことを心配したこともある。


 自分に自信のない瑞貴は積極的に秋月との距離を縮めることなど考えもしなかった。


――早いところ買い物を済ませて戻ろ


 余計なことを考えても意味などはなく、『秋月穂香は思ったよりも話しやすい』とだけ認識を書き換えるだけで良かった。

 紙皿を見つけることができたのでレジでの会計を済ませて店を出た。


「お待たせ。助かった、本当にありがとう」

「そんな大したことしてないよ」


 秋月は大黒様の頭を撫でていた。毎回、女性には甘い態度で接しているのは腹立たしく感じさせられる。

 それでも買ってきた紙皿に水を注ぎ、大黒様の前に置いてあげた。


「大黒様、紙皿で申し訳ないですけど飲んでください」


 大黒様はピチャピチャと音を立てながら水を飲んでくれた。やはり喉は乾いていたらしい。


「あんまり無理はしないでくださいね」


 大黒様へ話しかける様子を秋月に笑われてしまったばかりなのだが、無意識に話しかけてしまう。

 僅か2週間での習慣ではあるが大黒様との関係性は確立されてしまっているのだ。


 一頻り飲んで満足したらしく大黒様は立ち上がっていた。


「それじゃ、ありがとう。大黒様も落ち着いたから帰るよ」

「……そうみたいだね」


 視察を継続するのか、帰宅するのかは大黒様にゆだねるとして立ち上がっていた。

 『それじゃあ』とお互いに声をかけあい歩き始めたのだが、大黒様は秋月についていこうとする。


「大黒様、そっちじゃないです」


 さすがに瑞貴もその行動を認めるわけにはいかなかった。

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