第7話 ダジャレ
瑞貴は神媒師として自分の役割については知らされていたが、これまでの日常生活で不思議な経験とは無縁だった。霊的な体験も全くなければ、霊感もない普通人として自覚している。
神様と霊的な現象は別物かもしれないが誕生日を堺に、生活環境が一変させられてしまうことには戸惑いしかなかった。
ただし、幼い頃から超自然的な事象に関しての話を聞かされ続けてきたので恐怖を抱くことは少ない。自分の知っているコト・見えているモノが世界の全てではないのだと教えられている。
「それにしても、いきなり来るんだね。霊媒師が行うみたいに降霊術で呼ぶんじゃないんだ……」
「そんなわけないだろ。神様を呼びつけるなんて不遜なことが許されるわけない」
霊媒師のように降霊術を使って、必要な時にだけ神様を呼び込むことが出来れば便利なのかもしれないが違っているのだろう。
今、母に撫でられている小柴犬はシヴァ神であり、目的を持ってこの世界に顕現している。
神様は現世で果たすべき
神様の声を聞く力。
神様の能力を借り受けて行使する力。
必要に応じて『神媒師』の役割を果たすために最低限の能力は与えられているはずだが『シヴァ神』からの声は聞こえてこない。
「父さんの時には、動物を
「あるにはあったけど、言葉はちゃんと通じてたからな……。瑞貴と会話が出来ないなら今の俺では無理だ」
「それって、俺に『神媒師』として適性が欠落してるってことじゃないのかな?」
「いや、お前は認められてるだろ。現に、ここにいらしてるんだから」
先代の神媒師の父が『いらして』と表現していることに妙な感心をしてしまっていた。
そして、確固たる存在感を示しているのだから、瑞貴が能力を受け継いでいることに疑う余地はないのだ。
「まぁ、まだ初日だ。焦らずにやっていけばいいさ」
行動の主体は神様であり、神媒師は補助するだけでしかない。
残りの人生全てを神媒師として過ごすわけではないのであれば、能力不足など問題にはならないだろう。短ければ数年で解かれるケースもあるらしい。
「でも、『シヴァ犬』だから『柴犬』って、ダジャレみたいなことをするんだね。しかも、黒毛って……。『破壊神』としての威厳も全く感じられないし……」
本当に、こんなダジャレみたいなことで依代を選ぶのだろうか。瑞貴は気になって仕方がない。
「まぁ、間違いではないけど、あまり『破壊神』としての表現だけを強めるのは好ましくないな。ヒンドゥー教の最高神で『再生』のために『破壊』をもたらす神だから、
低レベルなダジャレに丁寧なフォローを加えてしまうと、痛々しさを増幅してしまうことに気付いてほしかった。
本当は名前のことには触れず、そっとしておいてあげた方が良いのかもしれない。
だが、ダジャレ要素に触れてはいても子柴犬の機嫌が悪くなる気配は感じられない。話すことが出来なくても言葉は理解している節はある。
もしかすると、この依代の選択には絶対の自信を持っているのかもしれない。
「さぁ、晩御飯の準備するね」
子犬を
「ところで、この子の食事はドッグフードでいいの?」
瑞貴は子柴犬と見つめ合っていた。見た目である犬を基本に考えるべきか、中身である神様を基本に考えるべきか非常に悩ましい。
「買ってきてあるなら、それでいいんじゃない?」
買い物してきた袋の中にドッグフードも見えていたので、瑞貴は母に提案してみたが、
「わんっ!」
シヴァ神からのダメ出しの一声が入ってしまい、意思疎通が取れている母はすぐに理解する。
「ダメだって、この子の分も一緒に何か作っておくね」
「あっ、肉全般はダメだよ。野菜メインでお願いね。……あと、念のため、犬がダメなものも外しておいた方がいいのかも?」
宗教的な知識としては不完全だが、ヒンドゥー教で肉食全般を避けているため配慮はしておきたい。また、依代になっている柴犬の体にも対応した健康管理が必要になるだろう。
「すっごい難しい注文!」
そう言いながらも、母は台所に向かってくれた。
――俺も、少しは料理覚えたておいた方がいいかもしれないな
瑞貴は自分が想像していた務めと違う方向性で苦労を感じ始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます