子供を倒せ(語弊)

「うーむ…… 先程の攻撃で仕留めたかったのう。ヤツめ、撤退を始めおった。ライトの言った通りアレが始まる。じゃが……」




 髭を撫でながらその魔導師は櫓の上に立ち戦況を読む。


 先程まで騒がしかった周囲は既に下に赴きここに残るのは彼ら"2人"だけ。




「のぉエリー? あやつライト、本当に移住者か?」




 口髭を撫でながら、短く彼は呟く。




 ライトという新人冒険者は、明らかに他のプレイヤーとは違うものを持っている。


 戦力ランキング一位、そんなものではおおよそ表せないようなハッキリとした違いを。




「と、言いますと?」


「そうじゃ。思考があまりにも此方側に寄っておる。それにあの技術は……」




 あまりにも似ている。




「エリー、じゃから彼を調べて欲しいのじゃ。彼が真に信用に値する人物かを。」


「イエスマスター」




 短く呟かれた言葉と共に櫓の上の気配が一つだけになる。




「さて、と。ワシは次の魔法を用意しておくかの…… 【必殺オリジナル:????】」




 再び櫓を光が満たす――――




 ――――――――――――――――


「それじゃあ俺はここでお別れなんだな。二人とも頑張るんだな!」


「「はい!」」




 城壁の外に降りると、そこには大量の近接職の方々が出番を今か今かと待ち構えていた。




 領主様はすぐに離れていっちゃったし……




 またしてもホノカと人混みで二人きり。はぐれない用に今度は早めに手を繋いだけど……




 ちょっと、いや大分気まずい。




 彼女の方もそうなのか、顔をちょっと逸らしながら問いかけてくる。




「ねぇライト、アレって結局なんなの?」


「あぁ、ごめん。それはね―――」




 カァカァカァ!




 カァカァカァ!




 大量の鳴き声が聞こえた。




「来たよっ! 眷属召還だ!」




 あの鴉がやってきてから、ゴブリンは駆逐され南の森には子氷烏が出現するようになった。


 レイドボスになるような巨大かつ強大なモンスターは一般的に"手下を呼び出す"。




 今回も来るだろうと思っていたけど……




 案の定だ。




「総員突撃なんだな!」




 森から人と同じくらいの大きさの氷の烏が溢れ出す。


 一面の蒼黒は自らの重さに耐える用に、低空飛行でこちらに向かって飛んでくる。




 と、同時に近接職が領主様の一言によって指向性を持った一個の波となる。




 そうして両者は丁度森と街の真ん中で……




 激突した!




「集団で一体を倒すんだな! 怯むんじゃないんだな!」


「こえぇぇ! 間近で見るモンスターこえぇ!!」


「でもこいつら殺れば素材も経験値もがっぽがぽだぜ! 行ける行ける!」




 さて、この世界のモンスターは中々に強力である。チュートリアルの草狼ですら倒せない人が多く、レベルの平均も未だ10にも満たないだろう。




 そんな中でレイドモンスターの眷属と当たれば……




「ぎゃーー!!」


「よっしゃHPミリ残っ……ぐはっ!」




 当然多くの人が潰れてしまう。




「ホノカ! 行こう!」




 あぁ、ひどい作戦だ。


 でも…… 効率的でもある。


 人の命が有限な前世じゃ、レイドは生きるための戦いだった。


 でもプレイヤーにとっちゃ狩るための戦い。


 死んでも復活先の神殿からここまで10分だ。それで報酬が貰えるんだ。


 命に価値なんてない。




「んだなぁ!!」




 重めの衝撃音と共にポリゴンが弾ける。


 領主様強ぇ……




「ライト! 【ストレングス】」


「シッ! 」




 ホノカと息を合わせ事前に補充しておいたナイフを投げ、プレイヤーが劣勢になっている烏の翼を吹き飛ばす。




「助かった!」




 感謝の声を背に浴びつつ僕らは移動を開始する。




「やっぱり、俺の目の前での犠牲は最小にして欲しいよ」




 軽い飛行をかけ戦場を高速で移動、有効打を与えて次の戦場へ。


 犠牲を少なくできるなら、俺はそれをするべきだ。




「ホノカ!」


「【スタミナン】っと、駆け回ろう!」




 翼をもげばもぐだけ烏は地に落ちる。


 地面に身体を横たえてしまえば……




「【スラッシュ】」


「【断ち刀】」


「【悪アックス】」




 高倍率のスキルが刺さり、ポリゴンが戦場に舞う。




 ははっ、楽しくなってきた! 闘ってる! 俺今闘ってるよ!




 ナイフが切れたので羽を放つ。




「くっそ、威力が落ちてやがる……」


「ライト? キャラキャラ!」


「はっ、えっ! あー、はは!」




 ちょっと血に酔ってしまった。前世から程よい、テンションの上がる闘いがあるとこうなってしまうのだ。大変大変。




「ちょっと頭冷やすよ……」


「敵のせいでただでさえ冷たいのに…… ははっ、また新しいライト見つけちゃった!」




 敵が減る速度が上がり、反比例するように味方が減る速度は下がっていく上、最初期に倒されたプレイヤーが帰ってきて戦場が安定してきた。




 いい傾向だ。開始から10分ちょい。ちょっと休もうかな。




 ホノカを抱き抱え、大きく上方に飛翔。僕は人が少ない所、戦場のド真ん中に降り立った。




「よっと。大分上手く飛べるようになってきた!」


「今の楽しかった! 後でもう一回!」


「りょーかいっと!」




 空は涼しかった。頭も冷えてきた。




 冷えてきたんだけど……




「楽しそうなことしてるじゃん! ついでに俺らも助けておくれ!」


「狼人よ! そんな変態に頼るな! 我ら4人で十分だ!」


「姐さん……」




 10人単位での集団の中で一際目立つ少数精鋭の……




 そしてかなりヤバめでめんどくさい集団に……




 僕らは捕まってしまった。

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