決闘は剃の如く也

「決闘しないか? 」




  ヤバめの人を熨したらもっとヤバめの人に絡まれましたライトです。お久しぶり。




  え、だってエグない?


 


  折角僕が生かしてやった雑魚の首を撥ね飛ばして、自分のことを『最強だ!』とか言いながら決闘挑んできた狼の獣人見たらみんなどう思う?




  え、マジ逃げたい。




  後ろをチラッと振り向く。




  えー…… なんか悦に浸ってますぜ親分……




  「なぁ、いいだろ、最強……? ちょっとだけ、先っちょだけでいいから決闘ヤらないか? 」




  ヒエッ




  え、怖いぃお尻が縮まったよ。




  「おい、ケーマ…… お前それじゃあ只のヤバい奴だぞ? あー、ちょっとまて鳥人小僧。これには訳があるんだ。」




  もう一度獣人族の剣士を顧みて、そそくさとその場を立ち去ろうとする。




  しかし回り込まれてしまった!




  剣士の連れらしき、エルフのお姉さん(2号 冒険者の姿)が話しかけてくる。




  こっちは結構話しが通じそうだったので、ちょっと立ち止まり先を話すように促す。




「あー、何処から話したもんか…… 私はリーヒャ。コイツの教育係をしている。それで――――――」




  長いから割愛したが、どうやら彼こそが、噂に名高い掲示板最強剣士様だったらしい。




  おぉ…… 彼の名乗りは何一つ間違って居なかったのか。悪いことをした。




  んで、彼は最強を自負していたのに、彼より強い僕を目撃。悲しくなって決闘を挑んできたと……


  成る程…… それは男の子の"サガ"だから確かに仕方ないね。


  僕らはいつだって最強に成りたい生き物なのだ。




  ……まぁ『まだサービス2日目なのに何言ってるんだ』という意見が無いこともないけど。




  そして、彼が言っている【決闘】とはシステムに保護されたPvPでデスすることのない闘いらし


 い。




「うーん、それなら…… やってもいい、かな?」


「本当か!? やったぜ! 俺はケーマ、よろしくな。」


「あ、ライトです。よろしくです……」


 


  おぉ、承諾したらめっちゃ喜んでくれた。思わず戸惑っちゃったよ。


 


  聞けばどうやら先程の闘いでも僕を助けようとしてくれていたようで、なんかいい人っぽい。


 


  でも、流石にタダで決闘してあげるのも詰まらないし、条件を付けることにした。




「装備を見た感じ、ケーマさんは大剣士…… ですよね? 丁度良かった!」


「うん、丁度いいってどういう事だ?」




  おうおう、少し身構えておられる。まぁ、そんな厳しい条件は付けませんって。




「この両手剣を賭けたいんですよ。うーん、そうだなぁ…… ケーマさんが勝ったら、コレ……タダで差し上げます。レイドの戦力が増えるのは僕としても嬉しいですしね。」




  背中に担いだ重りをポンポンと叩いて、その存在を強く知覚させる。




  ジュル……




  うーん、涎出るのねこのゲーム。




「でも……」




  ここで切り替え。




「……僕が勝ったら、さっき言ってた値段で、これを”必ず”購入して貰います。―――どうですか? あっ、品質についてはご安心を…… これ、《金角兎の更に1つ先のボス産》、なので。」




  その瞬間、音が消える。野次馬達も、ケーマからも、唾を飲む音が聞こえる。




  あっ、リーヒャさんは詰まらなそうな表情だ。……まぁ彼女は元々ここにいた冒険者だろうからなぁ。


  見た感じ今の僕よりもきっと強い。まぁさっきから黙ってこちらを見ているだけだから、気にしなくていいだろう。




  さぁ、準備は整った。




「それじゃあ、決闘在庫処分、しましょうか! 」


「あぁ! 」


 


  ―――正直、申し訳無いことにこれは旨い話すぎた。この、どうやって売ろうか悩んでいたバカデカい剣を簡単に処分できる。


  しかも相手はトップクラスのプレイヤー。レイドの戦力も上がるだろう。




  利用する様で悪いが…… まぁどっちにしろ剣は手に入るんだ。ケーマも異存はないだろう。




  システムメッセージが決闘の申請を知らせてくる。


  HPが一割以下になった時点で終了、致死ダメージでもHPが一割になった時点で止まるので安全っと。いいルールだ。




  空中のウィンドウを押せば……




『承認』




  僕とケーマを中心として円形の広場が出来上がる。外界とは光のベールで包まれ、野次馬達の姿が見える。




  目の前に立つのは一人の剣士。耳モフモフで可愛いね。後で触らせて貰おうっと。




  そんな事を考えながら、"短剣"を取り出す。するとケーマも無骨な大剣を構え……




  10秒のカウントダウンが始まる。




  9


  8


  7




  ケーマが身を屈め、突撃態勢に入る。距離は20m程か。




  6


  5


  4




  僕は小声で【雷矢】と【エンチャント黒金(兎)】、そして久々の登場【眉間打ち】を唱え、現れた煌めく矢を短剣を持っていない方の手に隠す。




  3


  2


  1




 ――――――――0




  そしてカウントが0になり……




  突進。人と鉄の塊が高速で迫ってきた。




  それに対し僕は……




  ―――――手に持った矢を投擲。




  ケーマは僕の得物を知らない。【火球】を使ったのは見られてたけど、弓はさっきは使ってないからね。


 


  そこで、短剣を僕は出した。―――あたかも僕が短剣使いであるかのように。




  間合いを詰めれば勝てるかのように。




  遠距離使いが一番怖いのは"避けられる"ことだ。一直線に突っ込んでくる的なんて怖くもなんともない。ただそれに向かって放るだけ。




  一寸のズレもなく、雷速の暗器は眉間を捉え……




  いつものポリゴンの代わりに、周囲の光のベールが弾けた。ケーマは無事みたいだね。良かった良かった。




「一体何が……」




  でも、何が起こったのかわからず放心状態みたい。




  僕は、そんな彼に微笑み、囁く。




「――――お会計、銀貨30枚、銅貨20枚になります」




―――――――――




「た、宝払いで……」


「ダメです。」


「わかった、分割払いで払う!」


「毎度ッ! 」




ケモ耳シュンとしてらー。かっわいー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る