その時暫定最強は目撃する

サービス開始2日目である今日、俺は午後から始まるレイドの為に草原で朝からレベリングを行っていた。




途中何処からか聞こえてきた叫び声にすわ徘徊ボスか!? と思って探し回った以外は殆ど単調な作業をこなし、昼食ログアウトの為に今街の入り口へと帰って来ていた。




そこで聞こえてきた大きな声。プレイヤー達も集まって、大きな人混みができていた。




「なんだなんだ!? 」


「うーん、今聴くぞ…… ふむふむ、なるほどな。ケーマ、移住者どうしが揉めてるらしいぞ。 ほら、こんな時はどうするんだ? そうだ、私が育てた"最強"のお前が止めないとな? 」




咄嗟に出たなんだの声に反応してくれたのは、昨日『今回だけ』と言いつつも今日もレベリングに協力してくれたNPCエルフ冒険者のリーヒャ先輩だ。




パ、パワーレベリングじゃないからな? 教えを請うているだけで、戦闘は自分でしている。




んで、そんなリーヒャ先輩がエルフイヤーをパタパタさせて言うことにはプレイヤー同士が揉めていると…




『そんなの知らんがな!』と言いたい所だけれど、先輩は自分が育てたプレイヤー最強(掲示板調べ)にプレイヤーの先頭に立って欲しいらしい。昨日、最強らしいことを伝えた時から、師匠面でふんすふんすしている。可愛い。




と…… そんなこんなで、俺は仲裁に行こうと群衆を掻き分けて渦中の一人である少年の近くまで辿り着いた。野次馬最前列だぜ。




どうやら状況はかなり深刻化しているらしい。




いちゃもんを付けた側の男が、つけられた少年の装備を強奪して今まさに逃げようとしている所だった。


【鑑定】によれば男のレベルは5。俺とは圧倒的な差がある。


……殺るか?


でもこれでPK扱いされたらなぁ……




ま、いいや! このゲームの平和の為にも殺ヤってやろうじゃないの!




「おぃ…「痛っ!」」




2秒くらい悩んで、ようやく決意して声を上げた瞬間―――




被さる様にして、少年の悲鳴が響いた。




どこからか攻撃を受けたのだろうか? でも俺のステータスで見えない攻撃とか、今の時点であるのか……?


ちょっと慢心気味だった俺は、そんな事を考えつつ少年を介抱しようと一歩足を踏み出す。




しかし、またもや俺の行動と被さるように声が微かに聞こえてきた。




『エンチャントプラチナ』




と。




その時、俺は少年の手に握られていた彼の翼と同じ"蒼"の羽が黒く変色するのを目撃した。




……うん? 蒼い翼?




基本的に鳥人種はレベル1~5まではtype卵として殻が付いている。そこから進化してtype雛になると殻が外れ、灰色の羽毛が露出する。




そこまでは、掲示板で確認されている。




だが――――




彩付きの翼、そんなものは未だ発見されていない。




でも一方で俺は知っている。俺だけが知っている…… 筈だった




"このゲームではlv15で3度目の進化が来る"




という事実。




「――――type成鳥」




となればこの少年は……




「シッ!」




刹那、黒金の翼が放たれる。




それはゴウッ! という音を立てながら…… 帰りかけていた男を掠めた。




男が振り替えると同時に少年が語りだす。




「お兄さん、ごめんなさい…… その両手剣は僕の戦利品おかねなんですよね…… 現状確認されているレベルで最高の武器なのですが…… 欲しいなら、さっき言った金額―――払って貰えます?」




凍える様な声が響き、思わず硬直してしまう。周りの野次馬達も一歩後ずさり、立っているのがやっとの様だ。




無事なのはリーヒャ先輩だけ。




興味深そうな、されどムスッとした様子で少年の事を伺っている。




そして…… そんな殺気とも言えるような声を直接正面から浴びせられた男は、さっきまでの威勢が嘘のように―――




ヘナヘナと座り込んでいた。




「あ、あ…… そんなの無理だ…… 返します、返しますからキルだけは!! またレベルが下がっちまう!!」




男は泣きじゃくり、命乞いを始める。


このゲームのデスペナは経験値ダウンだ。戦闘職には精神的にキツイ物がある。




「いいですよ? 元々殺す気は無かったですし…… そんな醜態を晒せばもうまともなプレイは出来ないでしょう。じゃあ、受け取っていきますね……」




そう言って、少年は優しげに嗤うと…… 男に向かって手を伸ばした。




と、同時に殺気が霧消し体が動く様になった。




が、しかし……




「油断したなオラァ!! やるぞお前らぁ!!【パワースマッシュ】!!」




馬鹿おとこは手に持った両手剣を振りかざしスキルを発動。




先程の少年の言葉は真であったようで、レベル5とは思えない…… ともすれば俺にも肉薄するのではないかと言う程のステータスで男は斬りかかる。剣には余程のステータス補正があるらしい。




が、当たらない。




「ほっと!【火球】」




軽くそれを回避すると少年は魔法を手の上に発生させ、またもや男のすれすれに投げつけた。


先程言っていた通り、まだ殺す気は起きていないのだろうか。




が、しかし、同時に男の声に呼応してパーティーメンバーだろう盗賊風の猫獣人、槍を持ったリザードン、ハンマーを持ったドワーフが少年に向かって突撃していく。




―――バランス悪くね? 前衛多すぎないか?




と、まぁそんな事を考えているうちに男達4人は一斉に少年に向かって己の得物を振りかざす。




「あっ、危ないっ!」




レベル差があっても、このゲームは急所に攻撃が当たれば、クリティカルが出て死亡してしまうという報告が掲示板にあった。つまり一対多はそれだけ急所に攻撃が当たる確率が上がり、危険が大きい。




俺は助太刀する為に後れ馳せながら駆け出した。




が、それも必要無かった様だ。




少年は飛び上がり…… そのまま翼を広げて【飛行】する。




そして急降下!




男達が密集する地帯へ落ち、華麗に一回転。




そして再び飛び上がった後には……




《スタン》の状態異常が付き、地面に倒れこんだ男達だけが残った。




「「「う、うおぉぉぉぉぉ!!! すっげぇぇ!!」」」




歓声が爆発する。これだけのレベル差のある相手を、殺さずにノすなんてことは相当の技量が無いと無理だろう。少なくとも俺には無理だ。




まぁでも、野次馬達には雑魚が綺麗に雑魚に勝った…… みたいに写っているんだろうが。




「よっと、一丁上がりっ! それじゃあ約束通りこれは返して貰うから…… よいしょっと…… んじゃ、さいなら!」




そんな中、歓声に包まれながら地面に軟着陸した少年は、男の手から両手剣を奪い取り担ぎ直しえっちらおっちら歩きだした。




「ま、待てy…… グハッ!」




辛うじて声を出し、手を伸ばす男。しかしその声も途切れてしまう。




―――――俺の首への一閃で。




モンスターとは違った赤いポリゴンが溢れる中で、俺は街へと向かう背中へ声を掛ける。




「待ってくれよ。ちょっと話しないか、三次進化者ご同類? 」


「ちょっ、止めろケーマ! そいつ確実にお前より強いぞ! ヤバい奴だったらどうするんだ? 私は守ってやらないぞ!」




リーヒャ先輩の制止を振り切り、努めて満面の笑みを浮かべる。




ちょっとでも強そうに見せるよう。ちょっとでも頼りがいがありそうに見える様に……




「俺はケーマ、3分前まで最強のプレイヤーって言われてた者もんだ。」




やっぱりちょっと悔しかった。最強の座が惜しかった。




だから……




「なあ、一緒に…… ―――――決闘遊ばないか?」




少年が……




いや、《最強》が……




――――――振り返った。




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