到着

「おう、オレはテツウチ。この街一番の鍛冶屋様だ。お前らは?」




そこら中に武器や防具が掛けられている店内で、先ほどのハイテンション髭もじゃはそう名乗った。


名乗られたら名乗り返さなきゃ。




「あー、僕はライト。こっちは……友達? のホノカです。」




ホノカが少しボーッとしていたので、ついでに紹介しておく。


大丈夫だよね? 僕だけが友達と思ってるとかじゃないよね?




少し照れ臭くて、ちょっと辿々しく紹介してしまったら、テツウチさんが悪戯っ子の目をしてからかってきた。




「なんでちょっと詰まったんだよ。あ? 彼女なのか? 恥ずかしいのかぁ? ほらほらっ」




その小柄な体で、僕のお腹をツンツンしてくる。




「はー、若けえ奴はやっぱ面白いなぁ…… んで、用件はなんだ? 金さえ出してくれりゃあ完璧な装備を作ってやるし、弟子入りは無料でさせてやる。どっちだ? 」




ホノカが掲示板で見た話しは、おそらくこの弟子入りってやつなんだろう。




多分師匠に学んで技術を会得するとスキルになる。で、進化先が出てくるって感じだろうな。




でも、当の本人は店に入ってから今までの一分ちょい、フリーズして動かない。




「おーいホノカ、ホノカー? 大丈夫?」




呼び掛けても動かないので、肩を軽くポンポンする。


それでも動かない。




「おーい! 」




もっと強い刺激が必要だろうか? でもこれ以上やったらセクハラになってしまうっ!




どうしたものかと考えていたら、テツウチさんがいつの間にか行っていた店の奥から、メイスと盾を持って出てきた。




……あっ、これヤバいやつだ。




テツウチさんがメイスを振りかぶったところで、僕は耳を指で塞ぐ。




ガッシャァァァァンッッッ




塞いでいても鼓膜が痛むほどの爆音。




こりゃダメージ入ってるな……




そんな物をなんの防御もなく喰らったホノカはと言えば……




「ッッッッッッッッッ……」




声にならない悲鳴を上げていた。




「うっわ…… 流石にやりすぎでは? 」


「す、すまん…… 流石にオレもここまで鳴るとは予想していなかった。」




あわてふためくホノカに回復薬を飲ませ、背中をさする。




「大丈夫だよホノカ…… 怖かったね…… 」


「うん、うん…… 」




泣きそうになる彼女をあやすこと3分。ようやく落ち着いた様で、ホノカは話し始めた。




「あっ、あの…… 私ドワーフがとっても好きで! 初の生ドワーフにちょっとテンションが振りきれて昇天してて…… もう大丈夫です。取り乱してすみません。」


「おう、嬢ちゃん。俺こそすまなかった。やりすぎちまったな…… 」


「い、いえ…… 」




お互いになんか小さくなってしまっている。




「ライト、背中さすってくれて有り難う。安心した……」




聞けば彼女はファンタジーな物作りが大好きで、幼い頃からそんな感じのライトノベルを読み漁っていたらしい。


それで、そういう話の代表的登場人物、ドワーフに強い憧れを持ったとかなんとか。




「キャラクリの時もドワーフにしようかどうしよっかって数十分悩んじゃって……」




それからホノカはドワーフについて熱心に語り始めた。


まぁ兎に角鼓膜ショックから立ち直れたようで良かったよ。




話を聞いていたテツウチさんもシュンとした状態から、怒涛のドワーフアゲを聞いて嬉しそうだ。




「嬢ちゃん、本当にすまんかった…… そして有り難う。他のドワーフ仲間も喜ぶだろう。んで…… ここまで熱い、ということは入門だろ!?」


「うん、木工工房にねっ!」




おっと、テツウチさんがまたみるみるうちに沈んで行って……




「いや鍛冶屋じゃないんかい!」

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