ちょっ、異世界人なのに殺人未経験ってマジですか!?
「はぁ、確かにその兄ちゃんの装備を作るってなったら鍛冶屋ウチじゃねえわな。見たところ弓使いだろ? また木工バカあのエルフの所に入門、か。」
慧眼だなぁ。どうやら一発で弓使いだと見抜かれていたらしい。流石多くの冒険者と触れあう鍛冶屋さんだ。
「あー、木工工房は右の扉だ。そこで入門を希望すれば受け入れて貰えるだろ。」
店の右側は、確かに弓や木刀などの木製の製品が集められていた。
しかし、テツウチさん悲しげな顔するなぁ。
「僕、サブウェポンで短剣を使うので多分またご縁がありますよ。ホノカは木工一本に決めたの?」
「いや、多分鍛冶にも挑戦してみるつもり! 」
「と、言うわけで…… まだお世話になります。それじゃあ!」
そうフォローしながら、ウィルカン工房という文字が可愛く彫られている扉を開ける。
音もなく扉が開くと、その先には結構な広さの工房が。
そしてとても芳しい木の香りが鼻腔をくすぐる。
しかし、嗅覚より刺激されるものが……
「ああ? クソッ、どうして出来ねぇんだっ!」
「ちょっと、もう少し丁寧に削りなさいよ! ほらっ、木が割れちゃってる!」
「ちっ、NPCの癖にさっきからお前、うるせぇなぁ? お前は黙ってスキルよこしゃあいいんだ
よっ!」
「NPCってなによ! ニュアンス的に貴方の国の侮辱の言葉かしら? 今日初めて会ったのにその態度…… 失礼ね!」
聴覚である。若い男おそらくプレイヤーだろうと、エルフの女性が大声で言い争っていた。
話されている内容からエルフのお姉さんが、恐らくこの工房の主なんだろう。
「ラ、ライト…… どうする? 流石に今行くのは怖いんだけど……」
「そう、だね。ちょっとここで待ってようか。」
僕たちは扉のすぐ近くで話が終わるまで待機することにした。
と、その時。ヒートアップして僕らに気付いていなかった男性が、ふいに此方を見る。
「あぁん? 何見てんだお前ら!」
「えっ、誰に向かって言ってんのよ!? あっ、お客さん?」
お姉さんの方も気付いた様だ。
「なぁ、お前らも入門希望か? ここは止めた方がいいぜ。何てったってNPCがバグってやがる。普通プレイヤーのために尽くすのが仕事だろ? なのにスキルの一個も発現しやがらねぇ。」
「それはっ、あんたが真面目にやらないからでしょ! 雑にやりすぎっ!」
このゲームのスキルは、事後承認が多い。僕の弓術のスキルは大半『元々出来たことがスキルになってし威力補正が入る』みたいな形式が多い。
おそらく木工も1つ作品を作り上げるとかなんとかでスキルが修得できるんだろう。
「ちっ、シカトかよ。いいご身分だなぁ? 男女でイチャコラしやがって! ゲームは非リアがやるもんだろ!? 調子に乗るな!」
スキルについて考察していると、こちらにまで飛び火してきた。
てっ、てか僕とホノカはそう言うんじゃないし!
「あぁ、ムカついてきた。お前ら、プレイヤーってことは殺してもオッケーなんだろ? 悪いな、ストレス解消に殺らせて貰うわ。」
黙っているうちに、どんどん相手の論理が飛躍してきた。
「ちょっ、どうしようライト! あいつ彫刻刀持ってる!」
ホノカが叫ぶ。向こうからこちらまでは結構距離があったけど、相手はもうその間の半分…… 5m程の距離に迫っていた。
「お前らの落ち度は俺の前でイチャついたことだ。死ねぇぇぇ!」
「ちょっと、止めなさいよ! 元々あんたと私の問題でしょ!?」
お姉さんが後ろから引き留めるが、止まらない。男は彫刻刀を振り上げる。
「ヒッッッッ」
ホノカは初めて感じる殺気にとんでもない恐怖を感じて、身を縮ませる。
でも無理もない。ここはゲームとは言えとてもリアルだ。15歳の少女が感じるには殺気それはとても重すぎて……
彫刻刀が振り下ろされる一瞬前、僕は彼女を抱き寄せる。
次いで、狙いを失い力無く振り下ろされる腕に向かって牽制のために羽を1枚抜いて投擲。
真っ直ぐ飛んで行った青い閃光は一直線に腕に向かい、そして突き刺さる。
彫刻刀が地面に落ちる。
が、そこでは終わらない。男はポリゴンとなって爆発。
「え、あ…… 死んだ? どうして?」
腕に抱いたホノカの体温が感じられなくなるくらい、背筋が凍る。
前世、今世含めて30年とちょっと
「僕が…… 殺した?」
僕ライトは初めて人を殺した。
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