初めてのログイン

ガチャッ




「ただいまー! 」




15分間自転車を飛ばし、無人の家に帰ってくる。階段を登って二階にある自室に入れば、そこには椅子型のVRマシーンが鎮座している。




「トイレもしたし、軽くパンも食べた……オッケー、それじゃあ始めて行きますか!」




 マシーンに付いているヘッドギアを被り体重を椅子に預ける。その瞬間意識が一瞬ブラックアウトし、次の瞬間白い無機質な部屋に僕は飛ばされていた。


 


 部屋の中には僕と本棚が一つ。この本棚の中にゲームのソフトが本の形で置いてあり、決められた言葉を言いながら本を開くことでログインが始まるんだ。




「えっと……YMoはどれだったっけ? お、あった。黄色い背表紙だったね。オッケーオッケー! 」




 先行ダウンロードをした際に見たきりだったから、少し探してしまったけど無事『Your Life online』と書かれた本を見つけることができた。




「よし、今度こそ期待通りの冒険を始めよう。Life In! 」




YMo用のログインコードをワクワクしながら唱え、本を開く。すると光が溢れ……




『ログイン完了。ようこそまたはお帰りなさい』




 機会音声がログインの承認を告げると共に僕は大樹の日陰に立っていた。地面には青々と芝生が繁り、風が吹き、仄かに草や土の匂いがする。




「お、おぉー! すごいリアル! 僕、今世界に立ってる!」




 それから30秒くらい辺りを飛んだり跳ねたり駆け回った。そしてもう一度大樹の下に戻ったところ、宙に光の球が出現した。




「あれ? なんだろこれ? 」




つついたり、撫でたりしてもても中で白い丸がぐるぐる廻るだけで変化はない。




「本当になんだろ?」




すると急に光が弾け…




「ログインありがとうございますワン! ただいま回線が込み合ってたワン。 お待たせして申し訳ねーワン! チュートリアル担当ダッキーですワン。よろしくだワン」




中から二足歩行で、燕尾服を着た犬が現れた。




「あ、あぁリリース直後だもんね。全然待ってないよ。」


「ありがとうワン。それじゃあいきなりだけどキャラメイクを始めてもらうワン!」




 そう言うとダッキーは肉球が付いた手を何も無い空間を引っ張る様に動かす。すると鏡が出現する。




「よいしょっと。これに自分の姿を写して、君のもう一つの身体を作るワン!」


「わかったよ。えーっと…? ここをこーして…」




  ――五分後――


 


「よし、できた! 」


 


 そこには前世の僕がいた。やっぱり冒険の続きがしたい、という思いが原動力になっているから、ゲームをするときは大抵前世に似せてしまう。このゲームはとてもキャラメイクが細かく設定できるので、滅茶苦茶そっくりの『僕』ができた。




「終わったワン? じゃあ次は種族を選んで欲しいワン!」




そう言うと、空に浮かんだウィンドウに多様な種族の姿と説明が映し出される。




人間種ヒューマン


  全てのステータスが上がりやすく、ジョブ適正も高い。が、逆に言えば器用貧乏な種族。この世界では最も多い人口を誇る。




獣人種ビーストマン


  人間に比べ筋力が伸びやすい。近接戦闘に優れ、それに合わせた職業に適正が高い。精霊の森に大規模な里を持つ。




森人種エルフ


・・・


鉱人種ドワーフ


・・・


鳥人種バーディアン


・・・


不死種アンデット


・・・




うーん…前世通りならヒューマン一択なんだけど、この世界なら前世では無理だった弓を極めることができるかもっていう思いも強い。




「【鳥人】って魔法使えたりする? 」


「勿論だワン! 適正の関係で習得難易度は高いけど、最終到達点はどの種族も一緒だワン! 」


「まぁアロー系の魔法さえ使えればいいか…じゃあ【鳥人】で始めるよ。」




すると鏡には、髪の毛と同じ青い色の羽が生えた僕の姿が写された。




「開始時の君は、《type 卵》になるワン! その姿は《type 成鳥》だから、レベルを上げて進化していって欲しいワン!」


「結構大変そうなんだね? でも一度決めたからには頑張ってみるよ。」


「がんばれワン! 次に職業だワン。メインジョブとサブジョブを選ぶワン! 」




職業か…二つ選べるならまぁこれは一択だよね。




「メインに《弓兵見習い》で、サブを《魔法使い見習い》でお願い! 」


「わかったワン。これでキャラメイクは終了だワン。これがこの世界の君、もう一つの君の人生を楽しんで欲しいワン!」




一生懸命冒険をしよう。あの頃の続きを目指して。この世界ならそれがきっとできる、そんな確信があった。




「それじゃあ次、戦闘チュートリアル行ってみるワン!」

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