第60話 神様は実在したらしい。ちなみに悪魔は実在している
教室に入ったとき、やはりというべきか注目を浴びた。優里さんは生徒会による制服チェックがあるということで、朝は別々の登校だったのがせめてもの救いだろう。
「おぉ~無事治ったんだな」
「おかげさまでな」
「それにしたって・・・なぁ?」
朝から秀翔のウザいいじりを適当に躱しつつ、自分の席へと腰を下ろした。綾奈はまだ朝練が終わっていないらしい。
つまり制御できるやつがこの場にいないことになる。すでに体調は万全なはずだが、無意識にけだるさがぶりかえしてきた。
「まだ調子悪いんか?」
「おかげさまで」
そう言いながら1限目の教科書を机の中へと押し込む。
なにも知らずに教科書を机に押し込んだら、中でグシャっという嫌な音が聞こえた。まったく朝からため息が出るな。
「あ、そのプリント3限目で使うからやっとけってさ」
「・・・やってるよな?」
「やってねぇ」
っていうか綾奈も昨日見舞いに来てくれたのなら、一緒に配布物を持って来てくれても良さそうなものだが。・・・なんでコイツはやってないんだよ。
目の前で大きくため息を吐いてやると、露骨に顔を顰めてくる。その意味が分からないんだが?
「ノブさぁ、そのプリントの中見てみ?」
「はぁ?中?」
中を見ると英語のプリントだ。それもザッと見、なかなか難易度の高そうな長文読解。
っていうかそれが何なんだろう?3限目が英語だっていうことは知っていたし、このプリントが英語までにやらなければいけないということなど言われなくてもわかるのだが。
「実はこのプリントの英文、俺らのグループが解説役に当たってるんだよなぁ」
「は?」
「だからぁ、俺がじゃんけんで負けて今日の授業で解説をしなくちゃいけないわけよ」
「誰がじゃんけんで負けたって?」
「俺」
なんでやって来てないの?マジで。んでなんで俺には直前までその話をしてくれてないわけ?
今どういう状況か詳しく説明すると、今年から俺達のクラスの英語の授業を持った先生のやり方で特殊な方式のものがある。かなり難易度の高い英語長文を各自プリントでやって来て、それを授業で解説。そしてその内容について、英語で意見を述べる。この後半の解説と意見陳述が授業でやることになるのだが、内容が難しすぎて意見なんてない。日本語でも意見を述べることが難しい内容なのだ。
すなわちじゃんけんに負けたこいつは万死に値するということ。
「やってきとけや~」
「やろうとは思ったんだけどさ?意味分からなすぎて1文目で心折れたわ」
「はぁ~、時間も無いし間に合わんだろこれ。そもそも長文読解だけで3限目迎えちまうぞコレ」
「だよなぁ・・・あぁ、なんか腹痛くなってきた。帰ろうかな、俺」
フラフラと自分の席に戻っていく秀翔をため息交じりに見送りながらどうしたものかとプリントを眺めていた。そんな俺の目の前に1枚の紙が差し出される。
「ん?」
「おはよ、ところで風邪は大丈夫?」
「あぁ、まぁおかげさまで。少し腹痛くなってきたけど」
クスクス笑うのは、同じ文化祭実行委員に選ばれた矢野さんだった。紙を受け取り内容を読んでみると生徒会より配布されたであろう、文化祭の催しの予算に関してを記した書類だ。
今はコレどころじゃないから詳しくは読んでいないが、まぁおそらく例年通りかな。
「あとこれも貸してあげる」
別のプリントが手渡される。そこにはびっしりとメモが取られたプリント。しかしメインは恐ろしく難しい長文が書かれている。
「昨日休んでいたでしょ?さすがに可哀想だから今回だけは私の見せてあげる。ちゃんと次回からはやってくるんだよ?」
「マジ?」
「うん。マジだよ?その代わり相馬くんたちには見せないこと。あの男子たちがやってきていないのは自業自得だからねぇ~」
シーッと人差し指を口に当てて念押しをされた。
俺としてはそれでなにも文句はない。秀翔の方を軽く見て、その後小さく頷く。
まぁ奴らには苦労して貰おうか。それにしても矢野さん、神様なのでは?そう思いながらプリントを確認する。
なんか色々細かくメモがあって、英語が苦手な俺でも理解ができてしまう。
やはり矢野さん、神様かもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます