第53話 気になるあの子たちは欠席らしい

 教頭のありがたいお言葉を終えて長かった職員会議も終わりを迎えた。

 教頭の目が届かなくなるのを待ってから、ため息を一つ吐く。元来私は興味のないことにはとことん興味がわかないタイプだった。

 教頭の言葉は私にとってそこまで興味のそそられるものでは無い。あの長いお話を聞くくらいならばその分布団の中で過ごしていた方が有意義だと思っているほどに。

 そして目下、私の興味を引いているものと言えばあの2人の関係性。

 1人は誰もが認める生徒会副会長。成績優秀で運動神経も高い。そして美人で、多くの生徒が男女問わず憧れを抱いている。その子の名は一色優里さん。

 1人は言っちゃうと悪いけど、普通の男の子。勉強はそこそこ、でも運動能力は高いらしく帰宅部であることをいいことにいろんな部活の助っ人をしている。その子の名は鷹司信春くん。

 偶然、通勤途中に電車に乗っているのを見かけてから興味を持ってしまった。

 前一度鷹司くんと話したときは偶然だって言っていたけど、学校での距離感、特に一色さんの態度を見ていれば他の男子と明らかに違うのが分かった。

 それからは毎日電車で通勤するようになる。そうすれば2人がどんな関係なのかが分かると思ったから。しかし、2人は何も隙を見せてはくれなかった。

 仲は良さそうと思っていたけど、付き合ってはいないらしい。

 一体どういう関係なのかしら・・・。


「もしもし、お電話変わりました。五月丘高校の小野ですが」


 目の前の席に座っている小野先生が電話を取られる。事務から小野先生宛だと回されたみたい。


「おう、鷹司だったか。一体こんな時間にどうした?・・・むっ、風邪か?鼻声じゃないか。あぁわかった。じゃぁ今日は休むんだな。あぁ、わかった。しっかり休めよ」


 私が興味を抱いている1人、鷹司くん。どうやら体調を崩してしまったらしい。


「鷹司くん、風邪ですか?」

「あぁ聞かれていたんですか、鳴海先生。えぇそうなんですよ。今日は大事を取って休むとの連絡でした」

「そうなんですねぇ」


 って言うことは今日は一色さん1人で登校なのかしら?もしかすると今日は車での登校かもしれない。私は去年を知らないけど、一色さんの登校風景はとんでもないものだったらしい。生徒や先生が興奮して話していたから私も見てみたかったと思う。

 そして朝のHRがもうすぐになったとき、保険医の佐々岡先生が職員室へとやって来た。

 そのまま小野先生の机へと歩いてくる。私の中で強烈に何かを感じてしまって、悪いとは思いつつ2人の会話を盗み聞きしてしまった。


「先ほど一色優里さんのお母様から連絡がありました。なんでも優里さん、体調を崩したそうで今日は大事をとってお休みするとのことです」

「おぉ、わざわざありがとうございます。そうですか一色も休みですか。実は鷹司も風邪だそうでしてね、流行っているんですかね?」

「どーでしょうか?でも季節の変わり目は風邪を引くといいますし、特に昨日は大雨で気温もグッと下がっていましたからね」


 やや引き攣った表情で話す佐々岡先生が私的にはかなり気になる。何か2人のことについて知っているのだろうか。それに2人そろって風邪というのも・・・。

 駄目だ、私の教師としての責任よりも、個人の興味が勝ってしまっている。どうにかしないと教師失格の烙印を押されてしまう・・・。

 気合いを入れるために、手元にある授業の資料に目を通す。私は先生。個人の興味で生徒の私生活に首を突っ込むのは駄目よ!

 顔をパンッと1回叩く。よし、気合いが入った。

 今日も1日頑張れ、私!

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