第48話 どうやら私は何かを言ったらしい

「優里先輩?」

「横野さん、どうかしましたか?」

「さっき会長と仲よさげに話していた人が、優里先輩が気にしているっていう鷹司先輩ですよね?」


 からかうような眼差しで私を見ているのは、書記の横野よこの楓華ふうかさんです。彼女は去年の文化祭で、外の高校から遊びに来ていた男の子と付き合っているそうで、よく私の相談に乗ってくれます。

 GWに水族館を提案してくれたのも彼女でした。


「はい」


 私がそう頷くと、会計の安宅さんも興味津々といった様子で私の隣に座りました。そこは生徒会長の席なのですが・・・、まぁ八神君も気にはしないでしょうし問題は無いですね。


「それで優里先輩はどこまで落としているんですか?」

「・・・全然なんです。前、横野さんが教えてくれたように色々試してはいるんですが」

「え!?」


 突然大きな声を出されたので私も驚いてしまいました。


「どうして横野さんが驚いているのですか?私は教えて貰ったとおりに色々試しているのですが、鷹司君なかなか気がついてくれなくて・・・」

「え?え?優里先輩?試したって、あれやったんですか!?」

「はい、GWに遊んだときに」


 私が白状すればするほど、何故か横野さんが顔を真っ赤にします?私何か彼女が恥ずかしくなるようなことを言ったでしょうか?


「一色さーん、何々、何の話?」

「五月蠅い!あんたは黙ってて!!」


 体育委員長の男の子が私に尋ねたのですが、横野さんが迫力で黙らせてしまいました。まぁ私としても信春君以外の人にあの話をするのは恥ずかしいので、彼女のフォローに感謝しなければいけませんね。尋ねてきた男の子は可哀想に、彼女の迫力に圧されてビクビク震えています。・・・なんだが子犬みたいでカワイイです。


「横野ちゃん?なんか優里先輩笑ってるけど?」

「・・・私にもよくわかんないよぉ」


 ついには後輩さん達も動揺させてしまいました。それにしても結局、横野さんは何をそこまで驚き、顔を真っ赤にしたのでしょうか?

 横野さんのアドバイス通り、彼のお布団で一緒に寝たのがそこまで彼女を動揺させたのでしょうか?

 しかしアドバイスでは、そんなの高校生の男女であれば普通だと仰っていましたし・・・。


 ――――――――――――――――――――

「いいか?ちゃんとお前もやるんだからな。矢野さんに丸投げなんかするんじゃないぞ」

「分かってるよ。流石にそんなことはしないって」


 隣の部屋から信春君と矢野さん、そして八神君が出て来ました。

 随分と念入りに忠告されていました。まぁたしかにそれくらいしないと信春君は、心優しい矢野さんに押しつけてサボってしまうかもしれません。・・・いえ、あれだけ責任感の強い信春君に限ってそんなこと。ペアが相馬君であればその可能性もないとは言い切れませんが、もしそうなった場合きっと相馬君もサボるでしょう。男女という制約がなければきっとお互いに押しつけあって・・・。考えるのは止めましょう。頭が痛くなってきました。


「それならばいい。それに幸いと言うべきか、3組には一色くんがいるからな。しっかり監視して貰うとしよう。よろしく頼む」

「あ、わかりました。鷹司君がサボらないようにしっかり監視します」

「一色さん・・・」


 そんな悲しそうな顔をしても見逃しませんよ。いつもは信春君の事を第一に考えている私ですが、今回に限っては矢野さんを積極的に応援することにしましょう。


「まぁとりあえず今日は解散で良いんだよな?」

「あぁそれでいい。近いうちに実行委員と生徒会で会議がある。近々その連絡もするから絶対くるように」


 念を押されて嫌な顔をしている信春君。・・・カワイイですね。

 そして2人は生徒会室から出て行ってしまいました。


「優里先輩、とっても機嫌よさげでしたね」

「ホントに。まるで我が子を見守る慈愛の目のような」

「どうして私がお母さんになるんですか!」


 ・・・えぇ気がついていますとも。周りの男の子が困惑していることも、私が特別な感情で信春君をさっき見ていたことも。

 でも、信春君との約束があります。私達の関係は無闇矢鱈に人に話さない。余計な混乱を生み出しかねませんから。


「ところでだいぶ雨が降っているな。早々に会議を切り上げて帰り支度をするとしようか」


 八神君の言葉で生徒会室の面々は歓声を上げたのでした。

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