第45話 占いはいきなり当たったらしい

「と言っても毎年恒例の全然決まらない実行委員だからな。先生は正直仕切りたくない。ここはそうだな・・・、一色に進行して貰おうかな」

「私ですか?」

「今日も生徒会の会議があっただろ?先生よりも詳しいと思ってな」


 大丈夫なのだろうか、あの教師。

 まぁ様子を見るにそこまで優里さんも嫌がっていないし、いいのかもな。それに優里さんが過去所属していたクラスにはある噂があった。

 あれだけ人気の無い実行委員なのに、優里さんが進行をすると速攻で決まるというものだ。男子の方が。

 まぁ理由は予想がつくし敢えて言及はしないけど。そしてそんな優里さんがいくら前で困ったとしても、コレに関しては本当に悪いと思うが俺は立候補するつもりはない。

 だいたい文化祭にそこまでやる気が無い。去年も一昨年もクラスでの役割をすり抜けてのんびり文化祭を過ごしたのだ。

 それが楽しかったというわけでもないが、文化祭を特別楽しみたいという気が無い。


「では、私が進めさせて頂きます」


 小野先生から生徒会提出用の用紙を受け取って教卓の前に立つ優里さん。

 その段階で教室は静まりかえっていた。先生よりも先生しているのだ。

 っていうか、さっき言ったけど文化祭には関わる気が無い。でも困る優里さんを見るのは心苦しい。と言うわけで下を向いて寝ているふりに徹することにした。

 去年はこれで上手くいった。

 あとで秀翔にばらされて大顰蹙を買ったのまでがこの話のセットになっている。


「さきほど小野先生からもお話がありましたが、7月に行われる文化祭に向けて実行委員を決めなければいけません。毎年のことで大変な役目になるとは思いますが、是非皆さんが楽しめる文化祭を行うために生徒会に力を貸してください。男女各1名ずつの選出です。誰かやってくれる人いませんか?」


 流石に3年目だ。誰も楽しい楽しい文化祭で苦労をしたいという好き者はいなかった。優里さんもじゃっかん困惑しているようだが、それでも俺は。そう思ったときわずかに教室がザワついた。

 しかし残念ながら下を向いているせいで何が起きたのかは分からない。


「田谷~お前がやってくれるのか!?」


 小野先生がテンション高めに言うから状況が分かった。田谷っていうクラスメイトは1人しかいない。田谷たやしのぶという野球部のキャッチャーをしているやつだ。おそらくそいつが立候補したのだろう。

 いや~あいつそんな積極的なやつだっけ?これで男子は決定だ。あとは顔を上げても大丈夫だろう。

 顔を上げて、感謝の意を込めて田谷くんに視線を移すと驚くことに田谷くんは俺に指を指していた。

 当然今顔を上げたばかりの俺にこの状況は理解できない。


「俺は鷹司を推薦します」

「ハァ!?」

「どうして鷹司君なのですか?」

「まぁ1つにあいつがこのクラス唯一の帰宅部っていうことがありますが、それよりも何気に色々やることに関して効率とか考えているし、準備のいいところがあります。あとこの雰囲気の中、唯一我関せずといった様子でした」


 くっそ、去年の秋に助っ人で試合に出てやった恩を忘れやがって。そして優里さんはそんな顔で俺を見ないでください。

 罪悪感で押しつぶされそうです。


「ということですが、鷹司君はどうですか?」

「俺は・・・」


 ほら俺しっかりしろ。嫌だと言え。

 クラス中の視線が俺に集まってきた。断りたい。別に他人の視線は関係ない。断ろう。

 そう決心して顔を上げたとき、優里さんとしっかり目が合った。

 なんと優里さんに視線が集まっていないことを良いことに、俺だけにわかるようおねだりをしているのだ。手をスリスリとあわせながらお願いと祈っているようだった。


「俺は・・・、俺は・・・、はぁわかったよ。俺がやります」

「本当ですか!?では男子の実行委員は鷹司信春君にお願いします!続いて女子ですね~」


 女子の方の決定に俺は関係ない。ため息を吐いたとき2つ隣の席の男子の声が聞こえてきた。


「ナイスだ、田谷。これで鷹司が一色さんと一緒に帰るのを回避できるぞ」

「あぁ、委員会があるときは俺が誘ってみるわ」

「馬鹿っ、最初に誘うのは俺だぞ」


 そういうことだったらしい。しまったな、油断していた。まさかここまで男子が一体になって俺を優里さんから引き離そうとしているとは思いもしなかった。

 そして女子の方はわりとすんなり決まったようだ。


「では女子の実行委員は矢野やの心葉ここはさんにお願いします。今日の放課後必要書類などを生徒会にまで取りに来てくださいね」

「わかりました」


 どうやら矢野さんはやる気があるらしい。一度も彼女とは話したことはないが、たしか去年は図書委員をやっていたはずだ。生徒会の図書室管理委員長よりもやる気があって図書室改革とか言って最近の本や幅広いジャンルを入れた結果、ほぼ利用者のいなかった図書室を大盛況させたという、本好きの生徒からは崇拝されている生徒だ。

 しかし普段はおとなしめで、実行委員なんてやらないタイプだと思ったがよく分からないものだ。

 そしてその後、文化祭の現段階で決まっていることを優里さんが伝えてから小野先生に代わった。


「はい。では今年も頑張ろうな。先生も毎年楽しみなんだよ」


 聞いてねえわ。ってかため息出るよ、全く。

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