第43話 不幸の始まりらしい
「信春君!私、今日は生徒会の会議があるので先に行きますね」
「ふわぁーい。いってらっひゃい」
歯磨きをしていると、いつもなら一緒に出る優里さんは先に出て行ってしまった。なんでも7月の頭頃に行われる文化祭に向けた会議があるらしい。生徒会って忙しいよな。
そんなことを思いながら、優里さんが用意していってくれた食パンに目玉焼きをのっけてテレビを見ながら食べていた。
にてしも今日も良い天気だ。カーテンの隙間からわずかに見える空を見ながらそんな感想を持つ。
『今日は午後より全国的に天候が不安定となり、場合によっては雷にも注意してください。お出かけの際には傘を忘れないようにしましょう。さて、では今日の占い!――――』
なんてこった。俺がまるで嘘つきみたいじゃないか。そもそも本当に雨が降るんだろうか?かなり天気良いんだけど・・・。
『うお座のあなた!今日は災難な日です。何があっても落ち込まずに一日を乗り切りましょう。ラッキーアイテムは”傘”。――――』
3月18日生まれの俺はまさにうお座。
朝からため息連発だった。まぁ占いがあたったことなんてそうそう無いし、気にせず今日も頑張ろう。
そのまま制服に着替えて、弁当を持って準備完了だ。
玄関に行って外に出ようとしたとき、朝の天気予報を思い出す。優里さんも今の天気にだまされたようで傘は置いたままだ。まぁ随分可愛らしい傘を俺が持っていくというのもなかなか恥ずかしいが、彼女をびしょ濡れにするよりは全然マシだ。
ということで、自身の傘と優里さんの傘を2本持って家を出た。
そのまま電車に乗る。いつもなら優里さんをかばいながら乗るのだが、今日は1人だから通勤・通学ラッシュに揺られながら、ぎゅうぎゅうに身を任せて乗っていた。そして停まった駅で知った顔が乗ってきたのが見えた。
「鷹司君?珍しいわね、今日は1人?」
「やっぱり鳴海先生でしたか。珍しいですね、こんな場所から乗ってくるなんて」
「朝寝坊していつもの駅の時間じゃ間に合わなかったのよ。それで先回りしてここから」
「なるほど」
鳴海先生は俺が事情を話していない先生陣の中でも1番警戒している先生だ。といっても悪意があるとか、悪用したいとかそんな感じじゃなくて若さ故の好奇心とか、謎の勘の鋭さとかそういうところで警戒している。
下手するとこっちの秘密に勘づく可能性がある。
「ところで今日は一色さんとは一緒じゃないのね?」
「そうですね。今日は車での登校かもしれませんね」
「あっ、そういえば今日は生徒会の会議が朝からあるのよね?副顧問の先生が大変だって嘆いてたわ」
こういうことをしてくるんだ。やっぱり油断ならない。
「そうでしたか。ところで先生?」
「何かしら?」
「慌てていたのは存じておりますが、その上着裏表逆になっていますよ?」
俺の声がそこそこ大きかったからだろうが、周りにいるサラリーマン風の男の人の肩が小刻みに揺れているのが分かった。
必死にこっちを見ないように吊革につかまっている腕で顔を隠しながら笑っている。そしてそれも分かった上で慌てて上着を正しく着る鳴海先生。
まぁとりあえずこの場ではこれで大人しくしてくれるだろう。
「・・・鷹司君って意地悪って言われない?」
「言われませんよ。むしろ優しい人という評判で持ちきりです」
呆れたような表情をした鳴海先生は何も言ってこなくなった。
作戦は成功した。っていうか先生の自爆で助かった。
『次は五月丘~五月丘でございます。お降りの際はお忘れ物の無いように――』
電車から降りて気がついた。俺傘2本持っているんだった・・・。しかも完全に1本は女の子向けのやつ。満員電車で手元が隠れていたのが救いだった。
校門には今日も今日とて小野先生が立っている。
「はぁ・・・」
すでに疲れた。軽くため息が出る。
その瞬間、朝の占いが頭をよぎる。
「はぁ・・・」
またため息が出てしまった。
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