第41話 悪ふざけが過ぎたらしい
「先生?」
「何よ~しゃべってないでサッサと食べなさい。時間が勿体ないでしょ」
俺の目の前に座っている佐々岡先生はガツガツとホタテを食べていた。
食べ放題で、注文したものを自分たちの目の前にある網で焼くといったものだ。
先生が金持ちだと分かったとき少し期待した。まぁホタテが悪いんじゃない。金持ちなことをほのめかしたこの人が悪いんだと思おう。
「信春君は食べないのですか?」
「いえ、食べますよ?優里さんは美味しいですか?」
「はい、こういったところで食べるのは初めてなのでとても美味しいですし楽しいです」
所謂道の駅みたいなところで食べているのだが、結構ロケーションがいい。
この食べ放題、コースがいくつかある。
1つ目は大きなホールの中で他のお客さんもいる中で机を貸し出されそこで焼くといったもの。比較的家族での利用が多いらしい。
2つ目は完全個室みたいなところ。ようは貸し切りで部屋と焼くための道具が渡され知り合いだけでワイワイできる。ここはカップルだったり、友人達と盛り上がりたい人たち向け。
3つ目は飲食店のカウンターみたいな感じで、これはお一人様に大人気コースになっている。
俺達は2つ目のコースなため、旅館みたいな部屋を1つと海に直接アクセスできるウッドデッキが貸し出された。
食べるのに飽きたら海でも遊べるという良心設計となっている。
「ヴゥン!2人とも仲が良いのはもう十分分かった。だからこれ以上私に嫌がらせするのは止めてもらえるかな」
「そんなつもりはありませんよ?あ、先生もホタテ美味しいですか?」
「・・・空しくなるから止めてくれ」
「ならどうすればいいんですか・・・」
そんなことを言いながら俺もホタテを食べる。あとはエビとか魚とかも焼く。
別料金にはなるが、食べ放題コースとは別に海鮮丼とか刺身とか寿司とかメニューは非常に豊富。
やっぱ持つべき者はいい先生だと改めて思った。今度は秀翔や綾奈も一緒に連れて行ってもらおうかな。
「何を考えているのかは知らんがこれだけは言っておくぞ。こんな良い思いをさせるのは今回限りだからな」
「・・・まじですか?」
「ほらみたことか。私はたしかに一色先輩にはお世話になったが、そこまで尽くしたいとは思っていない!ガキンチョに尽くすくらいならいい男に尽くした方がよっぽど建設的だと思わないか?」
「まぁたしかに、彼氏のいない先生からしたらそうかもしれませんけど」
「お前も彼女いないだろ」
正直そこをつかれるとぐうの音も出ない。隣にいる優里さんの肩を引き寄せて、「俺の彼女です」とか言えたらどんなに幸せだろうか?チラッと優里さんを見ると美味しそうにエビをほうばっている。
・・・やってみようかな?優里さんに限って怒ったりはしないはず・・・。
「残念ですが先生と一緒にしないでください」
「はぁ?」
「俺の彼女です」
ブゥッと先生の吹き出したお茶が俺にかかった。言わなきゃ良かったわ。
「・・・あー一色さん、その手を払いのけて顔を隠してもいいんだぞ?」
先生に言われてポタポタお茶が流れ落ちる顔を拭ってから優里さんを見た。
「ごめんなさい・・・、ちょっとした悪ふざけだったんです」
と言ってみたが、全然プルプルは収まらない。もしかして怒らせてしまっただろうか。もしそうだとしたら全力で謝ろう。
しかし優里さんは怒ってはいないようだ。
「(((・・///)」
あえて言うなら↑だ。
言葉にならない悲鳴を上げている。
「とりあえず鷹司が見栄を張ったのは十分に分かった。よかったなぁ、そんな反応をしてくれる彼女がいて」
腹立たしいが今回に関しては全面的に俺が悪かった。っていうかお茶をぶっかけた謝罪を貰っていないけど、今現在そんなことを言える雰囲気でもない。
「わ、わ、わ・・・」
「わ?」
「私信春君の彼女になってたんですかぁぁ!?」
椅子から立ち上がるやいなや部屋へと駆け込んでしまった。
「ちょっ!?優里さん?」
「ほっといてやれ、あれはとうぶん立ち直れんやつだ」
「やってしまいました。先生への意趣返しのつもりが・・・」
「見事に一色さんに被弾したわけだな」
クククっと笑う先生。対して俺はそんな暢気に笑えない。
「まぁ少なくとも嫌われていないことは分かったよ」
「嫌われてないって、なんでそんな風に思うんですか?」
「嫌われてるのなら肩を抱いた時点でビンタものだ。女の私が言うんだ、間違いない。あと根本的問題として同居なんてしないだろう?」
「まぁそうですけど。っていうかそれ秀翔にも言われました」
「秀翔ぉ?あぁ相馬のことか。なんだ、なら分かっているんじゃないか」
俺の周りにはとんでもない人が多いと思っていたが、そういう男女の感情に関して敏感な人も多いと思う。
俺はこれまで縁がなかったからなのかなんなのか、そういう女の子の感情とか変化とかにイマイチ鈍い気がした。
「分かってはいるんですけどね」
「えらく弱気だな。私に対してみたいにグイグイいってみればどうだ?」
「流石に無理です。先生と優里さんではそもそも違いますから」
突如エビの尻尾がとんでくる。・・・何してんの、この人?
「危ないじゃないですか。なんてもん投げてんですか」
「お前がウジウジしているから背中を押してやろうと思ってな」
「いいんですか?優里さんのご両親に恩があるんですよね?」
「先輩には恩があるが、その娘となると話は別だ。私はいち先生として一色さんを応援してあげたいと思っている」
今日知ったことがある。
佐々岡先生は意外とまともだった。一部だけ・・・。
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