第40話 俺の周りの人は”皆”ヤバい人だったらしい

「ってか先生BMW乗ってたんですか?」

「まぁね~。まぁまだまだ新人だから学校には乗ってかないけど」


 ほぼ拉致同然に部屋から連れ出された俺と優里さんは、佐々岡先生の車に乗せられてわりと遠くまで来ていた。

 この辺、移動手段が限られている俺達なら電車で来るところだが遠すぎてあまり来たことが無いエリアになる。

 前行った水族館の方向だが、すでに水族館は通り過ぎた。


「にしても嫌よねぇ。この辺の通りってあの水族館のせいでカップルがまあー多いこと多いこと」


 すでにこの人、優里さんの前でも隠す気は無いらしい。別に俺は良いけど。

 にしても、まさかここに数日前一緒に優里さんと来たなんて口が裂けても言えn


「そうですか?あそこの水族館とても面白かったですよ?先生も一度行かれては如何でしょうか?」

「なに!?・・・なぁ一色さん」

「はい?」

「一体一色さんは”誰”と”いつ”行ったのか参考までに教えて貰ってもよろしいですかね?」

「はい。GW中に信春君と行きました。イルカショーとかとっても面白かったですよ?それに進行していたお姉さんが私達のことをカップルさんって言ってくれて///」

「・・・それは興味深い話だな」


 俺達が水族館に行ったことを言ってしまった。ねぇ、優里さん?照れてないで運転席からこっちを見ている佐々岡先生を見てごらん?この人、生徒に殺気を向けているよ?

 なんて言っている場合ではない。あんまりこっちを睨まれると普通に事故ってしまう。


「優里さんが水族館に行ってみたいと言うので実際に行ってみたんですよ。まぁたしかにカップルが多かったのでお姉さんには勘違いされたかもしれませんが」

「なるほどな。お前達はカップルではなかったが勘違いされた。とそう言いたいんだな」

「そういうことです」


 大きな舌打ちが聞こえてきた。最近不本意な舌打ちをよく聞かされるよ、まったく。しかしそれとは別に俺の腕を引く優里さんがいた。

 一応佐々岡先生に配慮して小声で尋ねてみた。


「どうしました?」

「忘れてしまいましたか?あの日は私信春君の彼女だったじゃないですか。ですからあのお姉さんは勘違いなんてしていません」

「あ~そうでしたね」


 あの日のこと、そしてほんのさっきあった紅猫さんからの言葉が同時に頭に浮かんできて少し恥ずかしくなった。それも原因となってわりと大きな声で同意してしまう。

 おっと、また前から舌打ちが聞こえてきた。


「鷹司、とりあえずお前はここで降りて一人で帰れ」

「すみません。俺急に連れてこられたので財布持ってきてないんですけど」

「じゃぁ歩いて帰れ」

「冗談きついですよ。先生」


 あ、そうか。これ佐々岡先生のだらしない面を知っている俺が有利だと思っていたけど、逆もまたあるのか。佐々岡先生経由で俺達の生活を優里さんのご両親に知られる可能性もある。

 その生活が乱れていると思われれば、優里さんは連れ戻されてしまうかもしれない。

 なんてこった。こんな大事なことに今更気がつくなんて。

 癪ではあるが佐々岡先生には今後ごまをするしかない・・・。


「冗談だと思うか?私がずっと女子校にいて彼氏も出来なかったことを馬鹿にして・・・」


 後ろからハンドルを力一杯握っているのが見える。あとついでに言えば馬鹿にはしていない。


「そういえば佐々岡先生のご実家は何をされているのでしょう?お母様は何も教えてくれませんでしたが・・・」


 ナイス話題転換!優里さんも流石に不穏な空気を感じ取ってくれたらしい。


「アレ?知らなかったのか?私のお父様、製薬会社の社長よ。聞いたこと無い?『佐々岡医療化学』って」


 ・・・そりゃああるとも。今この場所からでも見えるこの街の中心部、そこのビル群の中でもずば抜けて大きい建物がある。

 それが佐々岡医療化学。つい先日、難病とされ治療方法も見つかっていないとされていた病に効くとされる薬を開発して世界的に注目を集めた医薬品界のトップ企業である。


「はぁ!?先生があの大手の令嬢だって!?」

「そのリアクションは腹立たしいけど事実よ。まぁ会社は兄が継ぐことになってるから私にはあまり関係がないけど」

「では私のお母様と先生が親しいのは?」

「元々大学の後輩だった私に繋ぎをお願いしたいって言われたのよ。まぁ親しくさせて貰っているのは個人的に恩を感じているっているのもあるけど、それ以外にも色々あるわ」


 おかしいな。五月丘高校って普通の県立高校なはずなのに、やけに金持ちが集まってきている気がする。

 俺ここにいて良いのだろうか?なんか先生を怪しい人だと思っていたのもヤバい事な気がしてくる。


「ちなみに鷹司君のお父さんね」

「・・・何か失礼なことをしたのでしょうか?」

「なんで急に敬語なの?気持ち悪いわよ。あなたのお父さん、私のお父さんがこちらに来て一緒に働かないか?って声をかけたらしいわ。まぁ一色フーズからのヘッドハンティングね。でも失敗したそうよ」

「親父は一体何者なんでしょうか・・・」


 マジで実の息子が1番親父の正体を知りたいと切実に思う今日この頃だった。

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