第20話 どうやら俺は人気だったらしい

「何?どういうこと?」

「先輩って知らないのかもしれませんけどぉ、女子から結構人気あるんですよ?」


 それは初耳だ。出来ることならもう少し早く耳に入れて欲しかったところなのだが。


「でもぉ先輩にその自覚はないし、攻略するのもゆっくりでいいかなぁって思ってたらぁ優里先輩と随分仲良くなってて~」

「何?何が言いたいわけ」

「私と付き合ってもらえませんかぁ?私も結構カワイイと思うんですよぉ」


 ほらな?やっぱり面倒くさい奴だった。にしても生徒会は随分と変わり者が多いらしい。

 そう考えている間にも安宅はジリジリと俺へ近づいてくる。

 だいたいなんで俺なんかが人気になるんだ。腹立たしいことだが、この学校の男女の顔面偏差値はかなり高い。

 学祭でも出会いを求めて他校の生徒がわりと見に来ている。

 そんな中で俺はよくても平均的な顔立ちだと思っている。特に目立った部分もなく、女子に歓声を送られるなんて事も全くなかった。

 最後に送られたのいつだったか・・・。あ、八神が生徒会に専念するためにサッカー部を抜けた後1発目の練習試合が最後だったはずだ。

 あの日も助っ人でサッカー部に行っていた俺は秀翔ワントップの1つ後方、所謂トップ下で秀翔やサイドの連中にボールを回し続けた。もちろんチャンスがあればシュートも蹴ったけど。ちな、1発も決められていない。


「ねぇ~先輩どうですか?」

「どうって、何?今すぐ返事しろって事?」

「はい!」


 そんな満面の笑みで言われても困る。そもそも俺の返事はもう決まっているし。

 ただし初めてされた告白だ。どう返事をしたものか本気で分からず、そこで困惑してしまった。


「あのさ、俺別に外見で彼女決めたいわけじゃないんだよね。たしかに安宅さんカワイイと思うけど、それイコール付き合いたいかって言われるとそうじゃないんだよ。それに俺の好みを言わせてもらうのならグイグイ来る子より奥手なこの方が好みなんで」

「は、はぁぁ!!??」


 まさか断られるなんて思っていないかったのだろうか。まぁこれまでもそれ系統で不遇な扱いなんてされてこなかっただろうし、告白しても断られた事なんて無かったんじゃないかとも思う。あくまで俺の想像だけど。

 そんな彼女は結構本気で呆けてしまっている。

 さてどうしようか。このまま放置するのも忍びないが、残念ながらタイムアップ。

 授業開始10分前の予鈴が鳴った。


「あぁ、まぁそういうことだから。ごめんね」

「え?あっ、ちょっと鷹司先輩ぃ!!」


 っていうかなんで俺が謝らなければいけないのか。こっちはなんやかんやで昼休み潰れた上に、弁当すら食えてないというのに。

 これは午後からの授業、睡魔と腹の音との格闘になるのかもしれない。

 ・・・あ、昼の授業1発目体育だったわ。終わった・・・。

 教室に戻ってくると、すでに多くの男子が着替え終わっている。


「アレ?お前まだ弁当くって無かったの?箸は?」

「・・・お前のせいで食えなかったんだよぉ!!」


 着替え中の秀翔の足に蹴りを入れるとバランスを崩したのか、思いっきり尻餅をついた。


「いったぁ!?おまっ状況見ろや!こっち長ズボンはいてる最中!アンダースタンッ?」


 なんか余計腹が立った。っていうか腹が減った。これ体育の授業もつのかマジで不安だ。


「今日の体育なんだっけ?」

「それよりまず俺に詫び入れろよ」

「それはこっちの台詞だわ。綾奈に怒って貰おうか」

「すまなかった」


 まぁ基本的に綾奈が俺の味方について秀翔を怒る事なんて滅多にない。それこそ秀翔がホントにやってはいけないことしたときだけだろうけど、コイツがそんな非常識なことをして綾奈を怒らせたなんて話も聞いたことがない。つまり俺は絶対負けるわけだ。それでも秀翔が謝ったのは、ここらがこの話の切り時だと思ったからだろう。


「で、今日は確かマラソンって言ってた気がする」

「マジかよ・・・。アキケンのマラソンとか地獄じゃねーか」


 毎年恒例のマラソン強化期間。べつにマラソンの学内大会があるとかそういうのでは無いけど、アキケンは何故か毎年やりたがる。あれはマラソンではなくただの耐久レースだ。

 ちなみに体育は男女別で行われるため、女子はそんな地獄を見ない。まじでこの期間だけは女子になりたい。


「俺が倒れたときは、日陰でなく保健室にしてくれ」

「なにその遺言」

「もうアキケンの顔を見たくない。それなら保健室の方がいい」

「わかったよ。半分俺の責任だし」


 蒸し返すみたいになるから口には出さないが、間違いなく俺が倒れるかもしれないと不安になる原因はお前だよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る