窓際の席のあの子は知らぬ間に彼女だった

楼那

第1話 夢に出てくる人を忘れてしまったらしい

信春ノブハル、ごめんな。お前を置いて行くことは不安だけど、叔父さんにはよろしく伝えておくから」

「ねぇ、どうしても一緒に来てくれないの?あなたと離れて生活するなんてお母さん考えられないわ・・・」


 幼き頃の記憶。俺の父さんは仕事の都合で頻繁に何度も何度も転勤を繰り返す人だった。そして、不思議なことに俺は父さんの仕事を知らない。そもそも父さんと過ごした時間なんてたかが知れていた。

 たまに側にいても仕事を聞いたら上手くはぐらかされていた。でも仕事をしていないわけじゃない。生活に不自由は無かったし、むしろ周りに物は溢れていた方だと思う。

 それでも中学校への入学を機会に俺は一人暮らしをすることを決心した。

 転勤族の父さんに付いていってもまともな学校生活が送れず、小学生なりに色々悩んだ結果そう結論付けた。


「心配しなくても良いよ。一応家事は一通り出来るし、困ったことがあったら冬基フユモト叔父さん達を頼るから」

「そうか・・・、悪いな。父さんも一応お前のために出来ることはしておくからな。もし本当に困ったら父さんの知人を頼りなさい」

「知人?」

「あぁ、その人の名前はな――――」




 そこで俺は目が覚めた。


「またいつものだよ・・・。はぁ、父さんあの時なんて言ったっけな?」


 目が覚めるとそこは中学生に上がると同時に引っ越してきた、冬基叔父さんが大家をしているマンションの一室の天井だった。

 今日で高校2年生も終わる。まぁ終業式なわけなのだが、この夢を見るといつも朝はすっきりしない。

 ため息とあくびを我慢しながら洗面台へと向かい顔を洗う。

 鏡に映る自分の頭をぐりぐりしながら当時の記憶を呼び起こそうと色々やってみるが、もう5年も抱えた疑問なのだ。

 そう簡単に結論など出るはずも無い。


「やべぇ、遅刻しそう・・・」


 鏡で反対に映っている時計を見ながらそう呟いた。

 県立五月丘高校に通っている俺は今日もこんな感じで登校するんだ。

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